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雑司ヶ谷鬼子母神堂が国重文に指定 ― 熱烈な郷土愛に支えられ(1/2ページ)

立正大名誉教授 渡邊寶陽氏

2017年9月20日
わたなべ・ほうよう氏=1933年、東京都生まれ。立正大大学院文学研究科仏教学専攻博士課程修了。文学博士。同大教授、学長、日蓮宗勧学院長などを歴任。2011年に瑞宝中綬章を受章。著書に『日蓮宗信行論の研究』『法華経・久遠の救い』『日蓮仏教論―その基調をなすもの』など。

昨年(平成28年)7月25日、東京都豊島区・法明寺の「雑司ヶ谷鬼子母神堂」が文部科学大臣から重要文化財指定を受けた。秋には「開堂350年・重要文化財指定記念報告会」が、小池百合子都知事も出席して盛大に行われた。

それを記念して刊行されたのが、法明寺の編になる『開堂三百五十年・重要文化財指定記念 雑司ヶ谷鬼子母神堂』である。A4判100ページ余に《図版篇》として堂宇内外のカラー写真を配し、200ページ余に《解説篇》《論考篇》をあてている。

江戸庶民の憩いの場

雑司ヶ谷「鬼子母神堂」は、『鬼平犯科帳』などにも登場するように、江戸庶民の憩いの場所であった。境内には「おせん団子」の茶店があり、ススキの穂でつくった「木菟」(みみずく)が売られ、人びとの心をなごませた。そうしたにぎやかな人の群れに隠れて、明治初期、上野の戦争を引き起こした彰義隊の烈士が、ひそかに会合した場所であったことが最近明らかにされている。

現在でも周辺の方々が熱心に鬼子母神堂に詣で護持しているというが、「吾が子が健やかに成長しますように」と、幼子をお弟子にお願いするという風習も盛んに行われたと聞く。であればこそ、今も毎年のお会式(日蓮聖人御入滅の記念日)に、万灯が50グループ以上も大通り(明治通り)をお練りすることが許されているのであろう。万灯行列は日蓮宗信徒による伝統行事だが、最近はかなり減少しているとも聞く。雑司ヶ谷の鬼子母神堂の万灯行列が盛んなのは、先代住職・近江正隆師が、第2次世界大戦後も熱心に信徒の方々と伝統を守り抜いたためだと、現住職・近江正典師は語る。

固い法華信仰を継承

鬼子母神堂の「本殿」は寛文4(1664)年、「拝殿」「相の間」は元禄13(1700)年に造立された。寄進したのは、広島藩第2代藩主・浅野光晟の正室、自昌院英心日妙(満姫)。信仰篤き祖母・寿福院夫人の固い法華信仰を受け継いでの行為であった。

論考篇で、近江正典山主「法明寺と鬼子母神堂」が、鎌倉時代に日蓮聖人の弟子・日源が真言宗の旧跡を日蓮宗に改宗して以来の法明寺の歴史を概説している。池上本門寺・碑文谷法華寺等とともに、不受不施(未信徒の布施を受けない・他宗の僧侶に布施をしない)を唱える日蓮宗寺院は徳川幕府から弾圧を受けた経緯を述べる。

寛文5(1665)年、幕府は土水供養令によって、此の世に生存することも幕府の供養に基づくものという厳しい姿勢で、不受不施派の諸寺に弾圧を加えた。同年12月、法明寺第15世智照院日了(1635~88)も讃岐丸亀に配流となったという。こうした緊張状態の中で建立されたのが鬼子母神堂だった。

すこしくその背景について述べると、自昌院夫人の祖母は、寿福院夫人(1570~1631)である。能登滝谷の妙成寺を菩提所と定めた篤信の人で、当時は幕府と妥協せざるを得ない宗教状況であったが、寿福院は断固として従来からの「不受不施」の信仰を固く守った。自昌院夫人は、そのきびしい祖母のもとで育てられ、わずか4歳のとき書写した「仮名書き一万遍題目」が、今も伝えられている。

自昌院夫人は、寛永12(1635)年、17歳で徳川3代将軍家光の養女として、光晟のもとに嫁し、4男5女を得たという。この間、日蓮宗寺院6箇寺を建立し、伝えられる数々の写経をつづけた。筆者も若い時に血書の写経を拝見した記憶がある。

数多くの信徒の名前

祖母の信仰を守って自昌院夫人は、九州宮崎の地に不受不施僧として流された安国院日講(1626~98)に金品を支援したという。徳川幕府が厳重に不受不施派を禁制しているなかでの、無謀ともいえる信仰行為であった。

逝去する6年前の元禄7(1694)年、75歳の時に、自昌院が孫の広島藩第4代藩主・浅野綱長に託した遺書は、その信仰を知るよるべとなる。

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