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持続可能な開発目標(SDGs)に関する宗教の役割(1/2ページ)

国連広報センター所長 根本かおる氏

2018年3月30日
ねもと・かおる氏=東京大卒。テレビ朝日を経て、米国コロンビア大大学院で国際関係論修士号を取得。1996年から2011年まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。国連世界食糧計画(WFP)広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て13年8月から現職。著書に『難民鎖国ニッポンのゆくえ―日本で生きる難民と支える人々の姿を追って』など。

「持続可能な開発目標(SDGs)」について国連総会で採択された世界目標だと説明すると、日本の方々から遠くかけ離れたものとして受け止められがちです。しかし、いえいえ、これは私たちにとても身近な目標なのです。

SDGsをどう実現していくかに関して、政府・国連に加えて、世界中の一人ひとりが主役だということを強調したいと思い、今回この原稿を書かせていただいています。人々の心の救済を目指し、時には危機の最前線に立って被災者への支援を提供し、人々の尊厳を守るための努力を重ねる宗教関係者の方々には特に、「誰一人置き去りにしない」を掲げるSDGsの担い手になっていただきたいと強く願っています。

2015年9月のSDGsの採択に至るプロセスでは、3年もかけて世界中で政府・国連・市民社会・企業・研究者・女性・若者などの様々なステークホルダーが協議を重ねてきました。こうして得られたマルチ・ステークホルダーの意見とともに、さらに世界から1千万人もがオンライン調査を通じて声を届け、その上で成立した「みんなのための・みんなで支える」目標です。

貧富の格差が先進国内でも途上国内でも国と国の間でも広がっています。経済のグローバル化は概ね人々の生活を便利にして世界を豊かにしましたが、その恩恵は平等には行き渡ってはいません。不平等感と格差が社会を不安定化し、暴力的過激主義を生みます。

紛争の数が増え、安全を求めて移動する難民・避難民の数は第2次世界大戦以降最高の水準になっています。自国で受けたトラウマに加え、地中海やサヘルを越えてヨーロッパへ、または中米を縦断してアメリカへと向かう途中で、数千人が命を落としています。アジアでは、イスラム教徒のロヒンギャの人々が、「民族浄化のお手本」とも形容されるミャンマーでの組織的な暴力や迫害から隣国のバングラデシュに逃れ、同国で避難するロヒンギャ難民の数は百万人規模に及んでいます。

移民・庇護申請者はしばしば人身取引をはじめとする犯罪者の格好の餌食となります。北アフリカのリビアでサハラ以南からたどり着いたアフリカの人々が奴隷のように商品として売られていたという、耳を疑うようなショッキングなニュースがありました。移民・難民への偏見や不寛容、排外主義はあらゆる地域で広がっています。その入国を制限する動きやイスラム教徒への差別など、最近の世の中の言説は統合と連帯ではなく、分断、分裂、排除の方向に走りがちです。

さらに、今世紀に入って気候変動が猛烈なスピードで深刻化し、スラムなどでぎりぎりの状況で暮らす人々をとりわけ襲います。17年にはカリブ海諸国をいくつもの大型ハリケーンが直撃して小さな島嶼国は立ち直れないほどの被害を受けました。

その背景には海水温の上昇、さらには気候変動があると見られていますが、大損害を被る小さな島国は気候変動を引き起こす二酸化炭素を自分たちはほとんど排出していないという皮肉な状況があります。パリ協定に基づく世界各国の国別温室効果ガス削減目標を足し合わせても気温上昇は2度を超えてしまい、将来世代に大きなツケを残します。台風の大型化やゲリラ豪雨の頻発、それによる水災害や土砂崩れの増加は、日本でも顕著です。

このままではこの美しい地球を、寛容な社会を、子・孫・ひ孫の代につないでいけないという強い危機感のもと生まれたSDGsは、経済・社会・環境の側面を包括的に推し進めながら、30年までにあらゆる形態の貧困に終止符を打つという非常に野心的な目標です。目指すべき到達点から逆算して行動をあらゆるレベルのアクターが起こさなければ、とても到達できるものではありません。

私がいろいろな機会をとらえて「SDGsを自分事に」と強調しているのには、このような背景があるからこそです。教科書に載っているから、試験に出るから、国際舞台で議論されているから学ぶのではなく、自分自身がアクターになって未来をつくるために学ぶことで、学びの面白さがグンと増すのではないでしょうか。

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