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「達磨宗」についての新見解 ― 中世禅の再考≪3≫(1/2ページ)

鶴見大仏教文化研究所客員研究員 古瀬珠水氏

2018年10月17日
ふるせ・たまみ氏=2011年、国際仏教学大学院大博士課程単位取得。博士(仏教学)。現在、鶴見大仏教文化研究所客員研究員、東京外国語大非常勤講師。主要論文に、「再考―大日房能忍と「達磨宗」―」「『法華問答正義抄』にみられる日本の禅宗文献―『見性成仏義』及び『明心抄』について―」等。臨川書店『中世禅籍叢刊』第十巻「稀覯禅籍集」(2017)において、称名寺蔵『見性成仏論』および『覚性論』の翻刻・解題を担当。

従来「達磨宗」とは鎌倉初期の僧侶、大日房能忍が興した宗派名と考えられてきた。その理由は、いくつかの資料に「(大日房)能忍が達磨宗を弘む」の文言が見られるためである。

例えば、『百錬抄』(1195)には「在京上人能忍等、達磨宗を建立せしむ」とある。また、『聖光上人伝』(1284)には、「昔、大日禅師なる者有り。好んで理論を策め、妙に祖意に契う。遂に文治五年の夏、使を宋国に遣わし法を仏照に請わしむ。【育王山の長老なり】仏照印可し、祖号を賜う。是に於いて禅師、院奏を経て達磨宗を弘む」と記されている。さらに『瑩山紹瑾嗣書之助証』(1306)には「三宝寺の能忍和尚、勅諡深法禅師に授け、釈尊五十一世の祖と為す。(中略)八宗の講者たりと雖も、進めて達磨正宗の初祖と為すを以て宣下を蒙る。これより日本国裏、初めて達磨宗を仰ぐ。其の法東山の覚晏上人に授く」とある。

しかし、前記『百錬抄』の全体の文章は「入唐上人栄西、在京上人能忍等、達磨宗を建立せしむ」とあり、栄西と能忍が達磨宗を弘めたと明記している。つまり「達磨宗」とはいわゆる禅宗のことを指していると考えられる。さらに、前記『聖光上人伝』の後半には「爰に上人、彼の禅室に至り、難じて法門を問う。不断惑の成仏【宗門の意】、『宗鏡録』の三章【標章と問答と引証】、天台宗の三諦【空仮中】、達磨宗五宗【潙仰宗、臨済宗、雲門宗、法眼宗、曹洞宗】等なり」と記されている。

「達磨宗五宗」とは南宗禅を指し、能忍の興した宗派名を指していないことは明らかである。『瑩山紹瑾嗣書之助証』では「(能忍は)初めて達磨宗を仰ぐ。其の法東山の覚晏上人に授く」とあり、「能忍が仰いだ達磨の法を覚妟上人に授く」の意味であり、「達磨宗」とは「達磨の法または教え」と理解するべきで、能忍が興した個別の宗派名とは捉えにくい。

さらに「日蓮遺文」の『教機時国鈔』(1262)には「建仁より已来今まで五十余年の間、大日・仏陀禅宗を弘め、法然・隆寛、浄土宗を興し、実大乗を破して権宗に付き、一切経を捨て教外を立つ」、同、『安国論御勘由来』(1268)には「然るに後鳥羽の院の御宇、建仁年中に法然・大日とて二人の増上慢の者有り。悪鬼其の身に入て国中の上下を狂惑し、代を挙て念仏者と成り、人毎に禅宗に趣く」、同、『開目鈔』(1272)には「建仁年中に法然・大日の二人出来して念仏宗・禅宗を興行す。(中略)大日云く、教外別伝等云云。此両義国土に充満せり」とあり、いずれも「大日=禅宗」と記述している。

また『元亨釈書』(1322)にも「初め己酉の歳、能忍という者有り。宗国の宗門、盛んなりと聞いて、其の徒を遣わして、船に附して育王の仏照光禅師に扣問せしむ。照、異域の信種を憐れんで、慰誘すること甚だ切なり。寄するに法衣、及び賛達磨の像を以てす。忍、光の慰寄に託って謾りに禅宗を唱う」と、「(能)忍は禅宗を唱う」と記されている。さらに、能忍の創建した三宝寺に関わる文書『正法寺所蔵文書』(1218)にも全て「禅宗」と明記している。

筆者は2018年7月7日、名古屋大大学院研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター公開シンポジウムにおいて、「再び「達磨宗」について―『天台一宗超過達磨章』に基づいて―」の題目で発表をした。

叡山文庫蔵『天台一宗超過達磨章』(13~14世紀)は、第百代天台座主良助法親王(1268~1318)の著作とされる。当資料については、ステファン・リチャ氏が2014年、日本印度学仏教学会において発表された。リチャ氏の説明に依れば、「『天台一宗超過達磨章』は大覚寺で院政を行う後宇多法皇(1267~1324)臨席のもと、良助と三人の禅僧、南浦紹明(1235~1309)、一山一寧(1247~1317)、高峰顕日(1241~1316)の間で起こる論争を想定した、架空の問答を記述する資料」である。

筆者は今回、『天台一宗超過達磨章』における「達磨宗」の呼称に注目したが、枚挙に暇が無いほど「禅宗」のことを「達磨宗」と呼んでいることがわかる。さらに、天台座主良助が臨済禅及び臨済僧(南浦紹明、一山一寧、髙峰顕日)を批判するときに「達磨宗」の呼称を用いている。つまり、「達磨宗」とは能忍が個別に興した宗派名を指しているわけではなく、一般的に天台宗のような伝統仏教側から見た新しい南宗禅を指していることが明らかになった。

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