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相撲と女人禁制をめぐって問われていること(2/2ページ)

慶應義塾大学名誉教授 鈴木正崇氏

2019年4月4日 16時53分

本場所の前日には「土俵祭」が行われる。私はこの儀礼を見て、なぜ協会がかたくなに「伝統」にこだわるかがわかった。土俵には精進潔斎しないと上がれない。土俵は場所が始まる1週間前に壊し、場所ごとに新たに造り直す。土俵作りは全くの手作業で「呼び出し」が担当する。土俵の土はかつては旧荒川(現隅田川)流域の荒木田河原でとれる土を使ったという。当事者は「土俵は神が宿るという意識はあります」「土俵は聖域って、もちろん意識してますよ」と語る。土俵は4日間かけて場所中に壊れないようにしっかり突き固める。

本場所初日の前日に「土俵祭」を行うが、1990年まで非公開で秘儀に近かった。土俵の中央に鎮め物を埋める穴を作り、中央の北側に白幣3本をたてて手力男命、建御雷神、野見宿禰(相撲三神)を祀る。東側に2本、西側に2本御幣をたてて、東西南北の四方の神を祀る。正面に三方を置き神酒と奉幣を置く。立行司が白の浄衣、小直衣を着て冠をつけて執行する。神職は関与しない。祝詞奏上で大相撲が無事に行われることを願い、お祓い、配幣の後、鎮め物(洗米、塩、するめ、昆布、勝栗、榧の実)を埋納して神酒を注ぐ。

次に、御幣を軍配に持ち替えて「方屋祭文」を唱える。「清く潔きところに清浄の土を盛り俵をもって形となすは、五穀成就の祭りごとなり…」と続く。終了後、三神の御幣は行司部屋に、四方の御幣は吊り屋根の四色の房に結わえて置かれる。「土俵祭」は神事風だが、実際に祀られるのは神事以前のカミと思われる。祠も社も祭神名もない「土のカミ」と「俵のカミ」、「大地のカミ」と「作物のカミ」に供物を捧げ、五穀豊穣を祈る。特に土が神聖視される。カミは「本場所」の間は土俵に宿り、吊り屋根から照覧し、取り組みがその下で行われる。カミは常在せずに、本場所ごとに土俵に来臨し、「神迎え」「神送り」を繰り返す。これは神事以前の民間信仰に由来する日本のカミの在り方なのである。

「神迎え」は万全である。問題は「神送り」にある。現在、千秋楽では、君が代斉唱→賜杯拝戴式→優勝旗授与式→総理大臣賞授与式→優勝力士インタビュー→優勝力士への各賞授与式→三賞授与式→出世力士手打式(神酒廻し・手締め)→神送り(行司胴上げ)→千穐万歳である。表彰式の順番を変えてみたらどうだろうか。「神送り」を行った後に表彰式を組み込めば論理に叶う。総理大臣賞の前に「神送り」をすれば、土俵の上に誰が上がってもよい。総理大臣に女性がなっても堂々と土俵に上がれる。力士は塩をまき、水を使い、裸ではだしで土俵に上がり、四股を踏み柏手を打つ。協会の役員も紋付き袴で正装して、土俵の下で履物をかえて土俵に上がる。なぜ、土俵の上に作法もさせずに普通の人を上げることが可能なのか。協会の方式は首尾一貫していない。優勝力士の表彰を土俵上でやって「神送り」して、その後に、一般人が上がればよい。女性も土俵に上がって構わない。表彰式の順序を変えよという意見は、既に内館牧子さんが提案しているが、協会は動かない。表彰台を設けて総理大臣杯以下を授与する方式ではどうか。柔軟な対応が必要である。

元々、「大相撲」は、国技館以前は掛け小屋での興行で、江戸時代後期からは回向院の境内が使われ、勧進相撲として縁日や開帳の余興として行われた。表彰式は「近代の儀礼」で、明治42年に常設館として国技館が成立して近代スポーツの方式を取り入れて始まった「創られた伝統」である。その結果、土俵は大都会の衆人環視の中で女人禁制の禁忌を守る異様な祭場となった。大相撲は根本的矛盾を抱え込み現代社会への対応を難しくした。伝統は時代の流れを微妙に変えていかないと生き残れない。相撲協会は、「創られた伝統」を柔軟に活用して、存続する智恵や方策を検討すべき時期にきているのである。

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