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文化財と宗教の関係性について(2/2ページ)

法華宗真門流法栄寺住職 木村良勢氏

2019年6月19日

事前調査の結果、従来の1体の県指定文化財は重要文化財に、15体は県指定文化財、5体の町指定文化財となった。これにより従来の地域管理でなく保存会が結成され堂内整備や管理公開を行っていたが、お堂の老朽化、将来的な管理の不安から一括して町の財産として移管され、近隣廃小学校を美術館として保存展示することになり、保存会は解散となった。

お堂はパネルのみ

その後、美術館は観光客を楽しませているらしいが、像も保存会も無くなった美術館近くにあるお堂は仏像群のパネルが展示されるのみとなっている。当時の市長は講演会で「行政として仏像をどう取り扱えるのか悩んだが、魂を抜くとただの物体になることを知り、それを利用させてもらった」という象徴的な発言をしている。

また特筆すべきは美術館で展示にあたり修復時に欠損部の復元に否定的で厳しく制限を課した点、入館者からは欠損部分について疑問を呈する声が多く、後に脱落部材を用い修理予定年を超過させつつも復元した点である。これは単に仏像群をただの展示資料と判じ崇物対象であったことを軽んじた現場管理者が仏像群を一目見て拝したいという入館者の信仰的熱意に押されたのではないだろうかと考える。

この仏像群は鎌倉時代初期の作で、修復の相談から30年で信仰対象として約800年あまりの歴史に幕を下ろしたことになる。もしかするとこの事案が無くてもいずれ仏像群が傷みお堂が朽ちて、または後継者不足により地域の宗教行事は途絶えていたかもしれない。

しかし、手を合わせることがなくなり身ぎれいになり宗教的な配列もなく、ガラスケースに閉じ込められる仏像群は果たしてしあわせなのか。最後の一人に手を合わされながら住処と共に朽ちていくのと一体どちらが造立の施主の願いにかなっているのか私にはわからない。

ただ、文化財という保護システム、国民的財産という価値を与えられたことによりこの抜け殻はもてはやされて、死ぬべき時を見いだせず果て無き延命治療を国民の財産として価値が無いと断ぜられるその日まで受けるのみなのだ。

正しい認識が必要

我々が信仰しているモノはそれ以外の側面があり、歴史的に貴重なもの、市場に価値がつけられるものである。世論は圧倒的に市場価値や歴史資料に重きを置いているという事実を文化財監護の立場にある所有権を有している我々宗教人は正しく認識しているだろうか。

文化財という異なる価値観を押し付けられる際のアメにしか関心がないのではないだろうか。端的にいうならカネと地位に目がくらんでいないのか。我々が信じ、崇拝しているモノは今後も受け継がれなくてはならない。今さら文化財との関係を否定し、新たな関係価値観を提唱できるわけでもない。

残念ながら信仰している仏像でも建造物でも経年劣化から逃れられるわけではない。保全すべき価値は何であるか、真剣に悩むべき課題である。しかしながら、これまで宗教組織自身や研究者、行政などが、宗教組織によるこういった活動を文化財価値として認識することはなく、その活動を保全するような措置はとってこなかった。

このため、文化財指定などにより保存されても、先ほどの信仰団体解散の件のように宗教活動は場合によっては阻害され、継承されないということが起きてきた。今後はこの宗教活動こそ重要な価値であるとして位置づけ、有形の要素との関連性、意味を評価する指標や仕組みを構築することが必要である。もう少し具体的にいえば意匠や構造などの美術的物質的価値が保存されながら、宗教活動を継続する「動態保全」が、今後の望ましいあり方であろう。

我々宗教者の活動には、修行や布教などの他に建造物の営繕、日常の維持管理の範囲内である軽微な補修、清掃などが挙げられる。こうした活動が仏教文化としての価値を構成する要素であると世論の認識を改めるよう働きかける必要がある。

この壁は大きく険しいが、乗り越えなければ「動態保全」はあり得ない。何よりも我々が他人の価値観にうつつを抜かし信仰というものを軽んじた責任を今清算すべき時なのではないだろうか。

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