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文化財と宗教の関係性について(1/2ページ)

法華宗真門流法栄寺住職 木村良勢氏

2019年6月19日

2018年は来日観光客が3千万人を突破し、今後も増えるらしい。この点において宗教者に求められるのは教えを広めるのでもなく、宗教文化を知ってもらうのでもなく、ただの観光資源として受け入れ態勢を整えることである。

そこには文化財という明治期以降導入されたアメとムチの存在がある。もはや文化財と寺院仏閣は蜜月関係にあり、数多くの信仰対象物が文化財としてもてはやされている。所有者側も「国のお墨付き」が栄誉であるかのように受け入れていることが多い。しかし、そもそも文化財と信仰対象は似て非なるものであるし、また、そうあり続けなければならないのだ。

それにはまず文化財とは何なのかを説明する必要がある。

日本での文化財とは「我が国の長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産です」と文化庁の説明にある。事実日本は、文化財保護法に基づき重要なものを国宝、重要文化財、史跡、名勝、天然記念物等として指定し、現状変更や輸出などについて一定の制限を課す一方、保存修理や防災施設の設置、史跡等の公有化等に対し補助を行うことにより、文化財の保存を図っている。

信仰的側面からすると先ほどの〈国民的財産〉という言葉に違和感を覚える。国民的財産である文化財の定義を受け入れてしまうとそれはすなわち他宗派の阿弥陀如来像や大日如来像、異教の聖母像神像等でさえも我々が崇拝しているモノと同じ価値を持って観よといわれているのである。

確かに美術的価値、工芸的価値、骨董的価値観においては同列視されても容認できるが、これでは信仰面からすると文化財であるという価値観に否と言わざるを得ない。正確を期すならば、信仰対象物は文化財の側面を持ち合わせてはいるがそれが全てではないとしなければならないだろう。

しかし、これが無ければ貴重な美術工芸品の国外流出に歯止めが利かなかっただろうことは想像に難くない。文化財は世界の列強と肩を並べんとした富国強兵・国威発揚という父と、文明も文化も劣っている国であるという劣等感という母から生まれたからだ。

生活苦により売却

明治維新を機に近代国家に大舵を切った日本国は、神仏分離令を発布し廃仏毀釈の起因となり神道家や活動家が躍起になり煽り、数多くの美術品が焼かれ、捨てられ、壊された結果生み出されたのが文化財である。

もっとも、この制度によって抑止力が生まれたわけでもなく、廃藩置県により廃仏毀釈運動が収まったのだが、皮肉にも各藩の収蔵品の売却が藩に庇護されてきた芸術家たちの生活苦によって促進されることになったのである。日本における文化財とは成立からその複雑な面を併せ持つのだ。

1884年、フェノロサが法隆寺側の反対に対し政府からの許可書を盾に救世観音像をその布から解放した瞬間に日本の文化財行政は宗教者不在の立場を強め、きわめて文化財関係者に利己的に動かされてきた。

また、戦後まもない1950年に制定された文化財保護法は国の財政は乏しく、国民も自ら保護に取り組むゆとりがなかった。このため所有者等の権利者に規制を課し、国が強く関与することで、保存を図る形となったのである。

しかし、戦後半世紀を過ぎようやく、ゆとりや豊かさを感じる生活が重視され、多くの人々が文化財と関わりをもてる環境を求め、文化財保護の精神が普及し、所有権や文化の継承といった観点が重要視されてきている。

もっとも一方で、悲しむべき事案も起きている。数多く起きている一つを紹介すると、信仰団体の解散・崇物的側面を断ち地域の宝物、象徴として保守保全するという例である。そのお堂は合併された寺院の中にありつつも地区が管理し続けてきたが、修復が必要な状態に陥り区の余剰金での修復を試みたことから始まる。

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