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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

学術調査は祭祀の妨げになるのか(2/2ページ)

成城大教授 外池昇氏

2019年11月13日
実際の祭祀は掌典職が司る

しかしその天皇による祭祀について説明するということで言えば、宮内庁は果たして最も相応しい部局と言えるのであろうか。確かに宮内庁は書陵部陵墓課や同じく陵墓監区事務所を中心として日常的に陵墓を管理する立場にはある。しかし、陵墓における祭祀ということで言っても、それは決して宮内庁を中心になされているのではない。もちろん天皇による祭祀の主体はまさに天皇に他ならないということになるのではあるが、実際の祭祀に際しては掌典職が司る。掌典職というのは宮内庁には属さない内廷の組織で、陵墓に限らず、宮中、宮中三殿における祭祀を司るものである。掌典職はこの問題についてどのように考えているのであろうか。大変関心が持たれるところではあるが、その肉声はなかなか聞こえてこない。

突き詰めて考えれば、信仰の対象であることと文化財であることとはおよそ相容れないことであるには違いない。しかし究極的にはそうであったとしても、信仰の対象であるにせよ文化財であるにせよ、現実の局面において大体はその両者の要素をともに併せ持ったものなのではないであろうか。一回でも博物館に展示されてしまえばその仏像の宗教的価値は全く失われてしまうのであろうか。そこに眠る亡骸やその霊魂に対する畏敬の念を前提とした墓地の学術調査などというものは、全くあり得べくもないのであろうか。もちろん、展示施設には貸し出されることがない仏像もあるかも知れないし、墓地の学術調査に難色を示す子孫もおられることであろう。しかし、総てが総て、全く許されないことでもない筈である。

いささか話が拡がってしまった。「百舌鳥・古市古墳群」の世界文化遺産への登録の件に戻ろう。「百舌鳥・古市古墳群」に含まれる巨大古墳はそのほとんどが宮内庁によって陵墓として管理されていることはすでに述べた。そのために本格的な学術調査の対象となっていないことも述べた。これらの巨大古墳の総てではなくても、何基かの古墳だけを対象としてであったとしても、十分な手順を尽くして、そこに眠る亡骸と霊魂に対する畏敬の念を抱かずにいることなくして、心を尽くした、そして丁寧な学術調査がなされることがあれば、そしてその成果が、一般のためにも理解しやすい形で公表されることがあれば、その古墳の価値はあらゆる面で上がることであろう。それは、学術的な面でそうなるというばかりではなく、信仰の上でも良い影響があるのではないか。

古墳に対して親しみと敬意

何しろ「百舌鳥・古市古墳群」に含まれる巨大古墳が造られたのは、わが国の国家形成期と言える時期に相当する。新たに得られる歴史的知見はさぞ多いことであろう。学術調査がなされ、それが分かりやすい言葉で多くの人びとに語られるのなら、その古墳に対して人びとは親しみと敬意を抱くことであろう。その場合の学術調査には宮内庁自身が当たるのが当然のことであろう。陵墓とされている古墳については誰よりも熟知されているであろうし、畏敬の念も十分にお持ちのことであろう。

そのような学術調査があったとして、それが果たして天皇による祭祀の障碍になるのであろうか。そのようなことはないのではないか。しかし、それでも学術調査は祭祀の障碍になるからだめだということになるのであれば、右の構想はその瞬間に全くの絵空事になってしまう。

しかしもしこのような学術調査が現実のものとなれば、「百舌鳥・古市古墳群」の世界文化遺産としての価値はなお上昇することであろう。本来ならばこのような学術調査がなされてから世界文化遺産への登録があっても良かったのではないか、とすら私は密かに思っている。

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