PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

釈尊の雨安居と雨安居地―釈尊教団形成史と釈尊の生涯③(1/2ページ)

東洋大教授 岩井昌悟氏

2020年4月2日 13時41分
いわい・しょうご氏=1969年生まれ。千葉県出身。東洋大文学部教授。東洋大大学院文学研究科修了。博士(文学)。専攻は仏教学。著書に『現代仏教塾』(共著・幻冬舎)、『近代化と伝統の間―明治期の人間観と世界観』(共著・教育評論社)など。

インドの気候にはおおよそ4カ月の雨期がある。日本の梅雨とはずいぶん雰囲気が異なり、ずっと一日中雨続きというわけではなく、一日に何度か、1時間程度土砂降りが降り、どこもかしこも膝丈まで水に浸かるけれども、それ以外の時には晴れている。釈尊の時代に、そのような雨期にも遊行する仏弟子たちがいて、人々から「どうして仏弟子たちは一年中遊行して、雨期になって芽吹いた草や土から出てきた多くの虫などを踏み殺すのか。仏教以外の宗教者でさえ雨安居して気をつけているのに」と非難され、それを聞いた釈尊は、仏弟子たちが雨期に雨安居に入るべきことを定めた。

雨安居とは仏弟子が3カ月間1カ所に定住する制度である。雨安居中の仏弟子たちは界(生活圏)の外に出られなくなる。ただし両親の病気などの特別な理由がある場合、7日を限りに界外に泊まることができる。7~10月が雨期であるとすると、7~9月まで定住する雨安居の仕方を「前安居」と呼び、8~10月まで定住するのを「後安居」と呼ぶ。例えば今年(2020年)、伝統を維持するタイでは、7月6日に雨安居初日(入雨安居)を迎え、10月2日が雨安居最終日となる(満月の翌日にはじまり、満月の日に終わる移動祝日である)。何かの事情で期日に雨安居に入れなかったり、雨安居に入っていたけれどもそれを失った(雨安居が無効になった)仏弟子は、1日でも遅れての入雨安居は許されず、丸1カ月遅らせて後安居を過ごすことになる。

なお毎月、新月の日と満月の日には、波羅提木叉(「仏弟子たるものは~してはならない。もし~すれば…の罰則に処す」という形の戒の条文が並ぶ条文集)を聞いて仏弟子が各自に犯戒がなかったか確認する「布薩」が行われる。これは雨安居中も同様であるが、雨安居の最終日の満月の日のみ、布薩ではなく、仏弟子たちがお互いに雨安居中に犯戒がなかったか確認しあう「自恣」が行われる。また前雨安居の後1カ月が作衣時であり、仏弟子たちは原則この期間にくたびれた衣を新調する。

雨安居の目的は何であろうか。釈尊は世間の非難を受けて雨安居を制定したように受け取られがちであるが、そうではないかもしれない。なぜなら仏教が採用した雨安居は、ジャイナ教の雨安居が単に「芽吹いた草や土から出てきた多くの虫などを踏み殺」さないことを主目的としているように見えるのと異なって、釈尊教団にとっての重要な機能を有しており、綿密な構想を前提としているように考えられるからである。

雨安居の前と後には普段、釈尊と行動をともにしていない仏弟子たちが方々から釈尊のもとに集まってくるという習慣があった。雨安居の前を「春の大会」、雨安居の後を「夏の大会」という。この二つの大会は諸文献では、例えば仏弟子が修行の課題を春に釈尊からいただき、その課題に従って雨安居の間修行し、その成果を夏に戻って釈尊に報告するというのが目的であったように語られるが、大会の本当の目的は、諸地方の仏弟子たちが定期的に自分の所に集まるように仕向け、彼らに布薩に際し波羅提木叉の最新アップデート版を聞く機会を与え、それを周知させることにあったのではないかと思われるのである。

三木清 非業の死から80年 岩田文昭氏10月27日

三木の思索の頂点なす著作 三木清(1897~1945)が豊多摩刑務所で非業の死をとげてから、今年で80年を迎える。彼が獄中で亡くなったのは、日本の無条件降伏から1カ月以上…

《「批判仏教」を総括する⑦》批判宗学を巡って 角田泰隆氏10月20日

「批判宗学」とは、袴谷憲昭氏の「批判仏教」から大きな影響を受けて、松本史朗氏が“曹洞宗の宗学は、「伝統宗学」から「批判宗学」に移行すべきではないか”として提唱した宗学であ…

《「批判仏教」を総括する⑥》縁起説と無我説を巡る理解 桂紹隆氏10月17日

「運動」としての批判仏教 1986年の印度学仏教学会の学術大会で、松本史朗氏が「如来蔵思想は仏教にあらず」、翌87年には袴谷憲昭氏が「『維摩経』批判」という研究発表をされ…

意思決定支援の試み その人らしさの重要性(10月29日付)

社説10月30日

社会的支援と宗教 救われると信じられるか(10月24日付)

社説10月28日

増大する電力消費 「原発依存」の未来でよいか(10月22日付)

社説10月23日
  • お知らせ
  • 「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
  • 論過去一覧
  • 中外日報採用情報
  • 中外日報購読のご案内
  • 時代を生きる 宗教を語る
  • 自費出版のご案内
  • 紙面保存版
  • エンディングへの備え―
  • 新規購読紹介キャンペーン
  • 広告掲載のご案内
  • 中外日報お問い合わせ
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加