PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン

凝然大徳の『八宗綱要』(2/2ページ)

早稲田大教授 大久保良峻氏

2021年1月12日 09時18分

有と空による区別は、法相宗と三論宗にも当て嵌まる。この両宗は奈良仏教の有力な学派として知られるのみならず、平安期以降にも優れた学匠を輩出した。それらの中、現在の日本で宗派として存在するのは法相宗であり、所謂、唯識を修学する学派であったので、その教義は仏教学の基礎として現在まで尊重されている。なお、三論宗の立場を示す要語に「破邪顕正」がある。俱舎と唯識(法相宗)は仏教学の基礎であり、それらの教理が他宗の研究にも必要になることは多く、『八宗綱要』に示される用語の理解が有益な示唆を与えてくれるのである。

八宗の三番目は律宗であり、凝然は華厳のみならず律に通暁していたことからか、『八宗綱要』の中でも最も詳しい説述となっている。平川彰『八宗綱要』の解説も、まさに専門家の解説であるため極めて充実した概説である。

天台と華厳は中国仏教の精華と言われるように、漢訳された経典を基に、中国仏教ならではの教義を構築した。つまり、サンスクリット原典を離れた漢文による仏教が確立したのである。天台では五時八教、華厳では五教という教判によって、全仏教を包摂する整理がなされた。所依の経典として天台宗は『法華経』(『妙法蓮華経』)、華厳宗は『華厳経』を最も尊重する。華厳宗の法蔵が著した『華厳五教章』には天台教学の影響が見られる。凝然は両宗の梗概を、それぞれの宗の立場に準拠して巧みに纏めている。

『八宗綱要』の最後は真言宗であり、主として空海に始まる真言宗について、簡略な記述で概要を論じている。空海系の密教義によって概要を説示するということは、十住心教判が基盤となる。それは密教の最勝を論じつつ、あらゆる立場を包含するものと言える。

『八宗綱要』と拙編著『新・八宗綱要』

『八宗綱要』はどちらかと言えば小著である。しかしながら、多くの情報が含まれているので、初学者が原文だけで読むには困難が伴う。何らかの講義を聞くか、或いは、既に、優れた概説書が出版されているのでそれらを丁寧に読むことが好ましい。

凝然も記しているように、一宗の理解であっても難しい。しかし、諸宗の基礎を知ることは仏教を学ぶ者にとって有益であることは確かである。そこに本書の価値がある。

20年ほど前に、各宗別の執筆者による『新・八宗綱要』の編集を考えたのは、現代的に別の観点から八宗を論ずる概説書の必要性を感じたからである。私が執筆したのは天台宗と真言宗の二宗であるが、特に密教については、東密以外にそれと拮抗する台密の展開があったので、真言宗を学派として台東両密を含む密教とする立場から書きたかったこともある。台密でも密教のことを真言宗・真言門等と表記することは齟齬を来さない。

天台宗について、蛇足を付記すると、凝然が最初の方で、「故に伊人法師の義例に云く」と記していることによって、最初に読んだ時に奇妙な気持ちにさせられたことを覚えている。これは「天台宗六祖湛然の『止観義例』に云く」の意味であるが、「伊人法師」という呼称を知らなかったからである。それは文脈からは湛然のことに他ならず、諸註釈書もそのように記している。古いものでは、織田得能の講義が国立国会図書館デジタルコレクションでも確認できる。

しかし、上記した天長の六本宗書の一つである天台宗初代座主の義真撰『天台法華宗義集』に、「湛然法師……中興茲道、実頼伊人。法師義例云(湛然法師……茲の道を中興するは、実に伊の人に頼る。法師の義例に云く)」と記されていることを見出した時に、疑問は氷解すると共に、学問の妙味を少々感じたことを思い出す。

「中日仏学会議」レポート 菅野博史氏12月24日

日本と中国の学者10人が研究発表 「第9回中日仏学会議」が11月1、2日に、北京の中国人民大学で開催された。人民大学には、中国の教育部に認められた100の研究基地の一つで…

宗教の公共性と倫理的責任 溪英俊氏12月12日

宗教への信頼ゆらぎと問い直し 2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題が社会的注目を集めた。オウム真理教地下鉄サリ…

“世界の記憶”増上寺三大蔵と福田行誡 近藤修正氏11月28日

増上寺三大蔵と『縮刷大蔵経』 2025年4月、浄土宗大本山増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書(以下、増上寺三大蔵)がユネスコ「世界の記憶」に登録された。 三大蔵とは思渓版…

道義喪失の人類社会 問われる宗教の役割(1月1日付)

社説1月5日

宗教界歳末回顧 節目となる年、節目とする年(12月24日付)

社説12月25日

地球環境危機 宗教の叡智発信を(12月19日付)

社説12月23日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加