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第22回「涙骨賞」を募集
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凝然大徳の『八宗綱要』(2/2ページ)

早稲田大教授 大久保良峻氏

2021年1月12日 09時18分

有と空による区別は、法相宗と三論宗にも当て嵌まる。この両宗は奈良仏教の有力な学派として知られるのみならず、平安期以降にも優れた学匠を輩出した。それらの中、現在の日本で宗派として存在するのは法相宗であり、所謂、唯識を修学する学派であったので、その教義は仏教学の基礎として現在まで尊重されている。なお、三論宗の立場を示す要語に「破邪顕正」がある。俱舎と唯識(法相宗)は仏教学の基礎であり、それらの教理が他宗の研究にも必要になることは多く、『八宗綱要』に示される用語の理解が有益な示唆を与えてくれるのである。

八宗の三番目は律宗であり、凝然は華厳のみならず律に通暁していたことからか、『八宗綱要』の中でも最も詳しい説述となっている。平川彰『八宗綱要』の解説も、まさに専門家の解説であるため極めて充実した概説である。

天台と華厳は中国仏教の精華と言われるように、漢訳された経典を基に、中国仏教ならではの教義を構築した。つまり、サンスクリット原典を離れた漢文による仏教が確立したのである。天台では五時八教、華厳では五教という教判によって、全仏教を包摂する整理がなされた。所依の経典として天台宗は『法華経』(『妙法蓮華経』)、華厳宗は『華厳経』を最も尊重する。華厳宗の法蔵が著した『華厳五教章』には天台教学の影響が見られる。凝然は両宗の梗概を、それぞれの宗の立場に準拠して巧みに纏めている。

『八宗綱要』の最後は真言宗であり、主として空海に始まる真言宗について、簡略な記述で概要を論じている。空海系の密教義によって概要を説示するということは、十住心教判が基盤となる。それは密教の最勝を論じつつ、あらゆる立場を包含するものと言える。

『八宗綱要』と拙編著『新・八宗綱要』

『八宗綱要』はどちらかと言えば小著である。しかしながら、多くの情報が含まれているので、初学者が原文だけで読むには困難が伴う。何らかの講義を聞くか、或いは、既に、優れた概説書が出版されているのでそれらを丁寧に読むことが好ましい。

凝然も記しているように、一宗の理解であっても難しい。しかし、諸宗の基礎を知ることは仏教を学ぶ者にとって有益であることは確かである。そこに本書の価値がある。

20年ほど前に、各宗別の執筆者による『新・八宗綱要』の編集を考えたのは、現代的に別の観点から八宗を論ずる概説書の必要性を感じたからである。私が執筆したのは天台宗と真言宗の二宗であるが、特に密教については、東密以外にそれと拮抗する台密の展開があったので、真言宗を学派として台東両密を含む密教とする立場から書きたかったこともある。台密でも密教のことを真言宗・真言門等と表記することは齟齬を来さない。

天台宗について、蛇足を付記すると、凝然が最初の方で、「故に伊人法師の義例に云く」と記していることによって、最初に読んだ時に奇妙な気持ちにさせられたことを覚えている。これは「天台宗六祖湛然の『止観義例』に云く」の意味であるが、「伊人法師」という呼称を知らなかったからである。それは文脈からは湛然のことに他ならず、諸註釈書もそのように記している。古いものでは、織田得能の講義が国立国会図書館デジタルコレクションでも確認できる。

しかし、上記した天長の六本宗書の一つである天台宗初代座主の義真撰『天台法華宗義集』に、「湛然法師……中興茲道、実頼伊人。法師義例云(湛然法師……茲の道を中興するは、実に伊の人に頼る。法師の義例に云く)」と記されていることを見出した時に、疑問は氷解すると共に、学問の妙味を少々感じたことを思い出す。

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