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東日本大震災と宗教者の災害支援のその後―震災10年(1/2ページ)

大阪大大学院教授 稲場圭信氏

2021年3月15日 09時14分
いなば・けいしん氏=1969年、東京都生まれ。東京大文学部卒、ロンドン大大学院博士課程修了。博士(宗教社会学)。大阪大社会ソリューションイニシアティブ「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」代表、宗教者災害支援連絡会世話人。著書・編著に『利他主義と宗教』『震災復興と宗教』『災害支援ハンドブック』など。

東日本大震災、3・11から10年。節目としてメディアは特集を組んでいる。今もなお時が止まったままの地域がある。あの日のこと、その前日までのことを心に抱き続けている人がいる。震災を風化させてはならないという思いがある一方で、被災された方々の中には区切りをつけたいという人もいる。「節目などと被災者以外の人が勝手に言っている」「そもそも被災者や被災地という言葉が失礼だ」といった言説は、当事者との関わりを抜きにして独り歩きしているものだ。それぞれに受けとめ方は異なる。そして、今もなお多くの人が思いを寄せている。

東日本大震災の前年、2010年にNHKが「無縁社会」という番組を制作した。当時、人間関係の希薄化が叫ばれ、思いやりなき自分本位な世の中であった(内閣府「社会意識に関する世論調査」)。そこに東日本大震災が起き、多くの人が苦難にある被災者に思いを寄せた。血縁や地縁がなくとも、たとえ他人であっても心を寄せる、その縁を筆者は「共感縁」と呼び、東日本大震災を契機に「無縁社会」に「共感縁」が誕生したと指摘した(『利他主義と宗教』)。その後も災害は頻発し、被災者に心を寄せる人は増えている。災害ボランティアもメディアで頻繁に取り上げられるようになった。

この10年、日本社会は災害に対して、どのように取り組んできたのか。本稿では、とりわけ宗教者の災害支援と社会の連携を取り上げる。

地域の連携

21年2月13日夜に発生した福島県沖地震は、多くの人に東日本大震災を思い出させたが、「3・11」を教訓として、水や懐中電灯の備え、避難準備、そして近所との声の掛け合いがあった(朝日新聞、21年2月16日)。近所の共助に加えて、災害ボランティアも日本社会に根付いている。阪神・淡路大震災以降のボランティアの延べ人数は480万人、住宅被害1棟あたりのボランティア数は、16年の熊本地震の際には0・58人であったが、昨年の熊本豪雨では、2・93人であった(朝日新聞、21年1月17日)。コロナ禍にあっても、地元、県域内のボランティアが活躍している。

「国民の生命、身体及び財産を災害から保護し、もって、社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資する」ことを目的とする「災害対策基本法」は、1959年の伊勢湾台風を契機として61(昭和36)年に制定された。ボランティアに関しては第5条の3に、「国及び地方公共団体は、ボランティアによる防災活動が災害時において果たす役割の重要性に鑑み、その自主性を尊重しつつ、ボランティアとの連携に努めなければならない」と規定されている。ここには「宗教」という言葉はないが、宗教者の災害ボランティアも含まれよう。

市民の自主性の尊重に関しては、地域での取り組みも重要である。同法第2条の2第2号には、住民、自主防災組織、および、地域における多様な主体が自発的に行う防災活動を促進することが定められている。

2014年3月には、内閣府が地区防災計画ガイドライン案を作成したが、その案にある地区住民、活動主体、活動体制、地域コミュニティーの重要要素、協力体制のどの項目にも「宗教施設」や「宗教者」に関する記述は無かった。

そこで、筆者らは、「寺社教会等の宗教施設を追記すべきである」という意見書をパブリックコメントとして内閣府に提出した。残念ながら、ガイドラインに反映されなかったが、その後、各地で制定された地区防災計画には、寺院や神社などが記載されている。例えば、岡崎市中之郷町地区防災計画(15年作成)、世田谷区上町地区防災計画(17年作成)、足立区「地区防災計画策定の手引き」(19年)などに寺社の避難所としての活用が言及されている。

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