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墓所から聖跡へ―鎌倉期の専修念仏と法難事件(2/2ページ)

佛教大仏教学部准教授 坪井剛氏

2021年11月18日 08時58分

では法然墓所に集う人々は、何のために法然墓所に参詣していたのだろうか。先の『知恩講私記』によれば、墓所には法然の「影像」が安置されており、人々は同尊像に向かって礼拝していたようである。参詣者らは生前の法然を恋い慕うとともに、自身の「往生を祈って」いたと書かれている。法然の遺骸に祈れば、自身の極楽往生が達成できると考えていたのであろう。言わば、法然自身が信仰対象であり、その墓所が一種の「聖跡」として扱われていたと言える。

このように法然墓所は、専修念仏者の「聖跡」となっており、ここに参詣した者の中から新たな専修念仏者が生み出されたことは想像に難くない。それ故、「嘉禄の法難」事件では、真っ先に破却すべき対象として延暦寺側から目を付けられたのではないだろうか。

祖師信仰の高揚

「聖跡」としての法然墓所のあり方は、一般的な墓所の機能から考えると特殊であろう。というのも、やはり墓所は本来、死者の遺体・遺骨を安置する場であるとともに、その供養を行い、冥福を祈るための装置だからである。鎌倉初期には、追善仏事は墓所から離れた寺院で営まれることが多い一方で、墓参りの習慣も少しずつ出てくるが、一般的ではなかったようである。法然に対しても没後の中陰仏事が行われたという記録も存在するが(『法然上人行状絵図』巻39)、これが事実なら、一般的な死者と同じく、法然への追善供養が行われたと判断される。

しかしこの後「祖師信仰」が高揚・浸透し、法然墓所は専修念仏者の「聖跡」としての認識が一層広まっていく。「供養の場」から「信仰の場」への変化の背景を解明するのは容易ではないが、先に言及した『知恩講私記』の編纂が大きな一因となったと思われる。同文献は、これまで法然伝の一種として扱われてきたが、本来は「知恩講」という仏教儀礼の次第書であり、法然墓所で同儀礼が営まれたと考えられるからである。

この『知恩講私記』は、5段に分けて法然生前の事績や没後の徳が讃歎されており、儀礼中にその式文を読み上げたのであろう。

注目したいのは、法然自身を「勢至菩薩の垂迹」「阿弥陀仏の化身」「道綽の来現」「善導の再誕」と表現する箇所である。これは『知恩講私記』の作者が、法然自身を我々通常の人間とは異なる「権者」(=仏・菩薩の化身)と位置づけていることを意味する。そして、法然墓所に参詣し、この仏教儀礼に参加した人々は、儀礼中に読み上げられる式文を聞き、法然の生涯を追体験するだけでなく、法然を「権者」とする認識を共有していったことであろう。

このように、法然墓所は祖師信仰の高まりとともに、多くの参詣者が訪れる「聖跡」と化していったのである。

おわりに

さて「嘉禄の法難」事件の後、いったん破却された東山大谷の法然墓所は、弟子の源智(1183~1238)によって再興されたようである。後に、この堂舎が「知恩院」と呼ばれるようになり、祖師信仰の拠点としての性格も引き継がれていく。それ故、幾多の火災に遭っても、その度ごとに再建されたのであろう。

専修念仏の歴史的展開を考える上で、祖師信仰の果たした役割は、より積極的に評価されるべきではないかと考える。

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