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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

《新年座談会⑤》コロナ後、社会・宗教どう変わる?― 贈与としての言葉、宗教者に必要(1/2ページ)

 安藤礼二氏

 中島岳志氏

 釈徹宗氏

2022年1月13日 09時01分

 「自分たちが良い先祖になるのだ」。そう思う人は世界中におられるでしょうし、縮んだ時間を延ばすのが現代人のテーマだと先ほど言いましたが、心と体に流れている時間を延ばす人類史上最大の装置は宗教儀礼だと思いますね。宗教儀礼の場に身を置くことで、自分の中に流れている時間を少しずつ延ばす仕組みになっているのだと思います。

考えるとエボラ出血熱もサーズ、マーズもよその国のことという感覚でしたが、今回日本もリアルに感染症と向き合うことになりました。感染症パンデミックはいかに自国の感染を抑えても、苦労している国がほかにあればやがて自分のところに回ってくる。世界のどこかで苦労している人がいると、やがて自分のところにも回ってくることを感染症が可視化してくれたと思います。これから人類はますますフェア&シェア(公平と分配)をテーマにしていかないといけない。部分と全体の一致は華厳経が説いていることでしょう。利他や分かち合いの問題を、コロナはかなりの説得力で浮き上がらせてくれたという気がします。

中島 一般に利他の反対は利己だとされていますが、そう言い切れないのが利他のやっかいなところです。外見上とても良いことでも、その人の心に「これをやって褒められよう」「地位や名誉を築こう」という思いがあると、その行為はとても利己的なわけです。利他と利己はメビウスの輪のようにつながっていて「安藤さんのために」と料理屋にお連れしても、安藤さんはアレルギーなどで食べられないものかもしれない。「どうして食べてくれないんだろう。こんなに勧めているのに」とエゴが出てくるわけです。「ありがた迷惑」です。

与えることが利他だと思ってきたが、そうではない。その行為が受け取られたとき、初めて利他が発生するという構造があると思います。時制の問題が非常に重要で、受け取られるまでにすごく時間がかかったり、思いがけない行為が受け取られたりすることがある。中学1年の時にすごいけんかをして、先生に怒られました。当時は嫌な思い出でしたが、20年ぐらいして先生が言われたことを「ありがたかった」と思い出し、人生の転機だったと思うようになりました。

先生にお礼を言うことはかないませんでしたが今言えるのは、20年後に先生の言葉を受け止めた瞬間、先生が利他の主体として浮上したということです。つまり「受け取る」ことがとても重要だと気付いたのです。ここから私は弔いということを考え始めました。弔うことは利他ではないかと。亡くなった人の土台によって私たちが生きていることに思いをはせるのが弔いの一つとするならば、弔いによって死者を利他の主体へと昇華することができる。私たちができるのは誰かに与えることではなくて、受け取ることではないか。受け取ることの一番大きなものは宗教的な弔いではないかと思うのです。弔いによってディープタイム(深い時間)を私たちが引き受ける。そういう世界観が利他とつながっているのではないかと考えます。

 安藤さんのご研究にも、利他の問題や「分かち合う」問題が論点として出てきますか。

安藤 中島さんがおっしゃったのは時間的、空間的な他者と共に生きるということですね。亡き人の本を読んだり、本を書いたりすることはまさに死者に対する弔いでしょう。死者から何か贈り物を得ている。中島さんは実践的な政治学の問題として弔いや利他のお話をされたと思いますが、私は文学的な表現の問題として、弔いや時間的、空間的な他者との共生がない文学作品はあり得ないと思います。

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