PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

宗教と自己存在の問題について(1/2ページ)

時宗教学研究所研究員・一向寺住職 峯崎賢亮氏

2022年4月4日 09時16分
みねざき・けんりょう氏=1956年生まれ。東海大医学部卒、同大学院博士課程修了。医学博士。総合内科専門医。循環器専門医。時宗一向寺(茨城県古河市)住職。時宗教学研究所研究員。2008年、論文「死を覚悟した人達の為の浄土門の教え」で第4回涙骨賞最優秀賞を受賞。著書に『四十歳からの南無阿弥陀仏』(文芸社)がある。

哲学者西田幾多郎氏によれば、宗教の問題は、価値の問題ではなく、我々が自己の自己矛盾的存在たることを自覚した時、我々の「自己存在そのものが問題」となる時に生じるという。そして自己存在の根本的な自己矛盾の事実は、死の自覚にあるともいう。つまり自己存在は、死による「自己存在の喪失」を自覚することで、自己矛盾的に自己の存在に気づき、宗教の問題が生じる、ということであろう。

通常の日常生活では、漠然とこの生が継続するという思い込みで、予定、希望、期待といった未来を想定して生きている。死の自覚とは、漠然と信じてきた、ある種の絶対無限たる自己を、否定されるような事態に陥った時に初めて、自らの存在が、有限的で一度的な「個」であることを自覚するのである。自己存在は、その意味でも矛盾的自己同一なのである。

死の自覚を前提とした医療が終末期医療であり、その現場でしばしば議論される、臨床哲学的な自己存在に関しては、時間存在、関係存在、自律存在の三つに分けて検討されている。

(1)時間存在の問題

時間存在の喪失とは、一言で言えば、未来が失われた、と感じられた時に生じる。死の自覚は未来に対する喪失感を伴うが、その喪失感によってもたらされる感情こそが、絶望感である。その意味でも、絶望感と不安感は別次元のものと言える。不安感と希望・期待感は、想定された未来に対する感情であるという意味で、同次元である。未来には不確定要素があるために、「想定外」のことが生じることで容易に、不安が期待へ、期待が不安へと裏返る。まさに不安と希望・期待はコインの裏表の関係と言える。

しかし絶望感は、未来の喪失に伴う感情である。未来自体の喪失なので、未来に対する感情である「希望」はおろか「不安」も起こらない。絶望によってもたらされる厭世観は、人が死なないでいるためのブレーキを外し、希死願望へと導いてしまう。西田氏がいうように、自己存在の崩壊の危機によって、宗教の問題が生じる契機ともいえる。

山折哲雄氏によれば、文芸評論家の亀井勝一郎氏は『歎異抄』の言葉によって人生の大きな転機を掴んだと言われているが、彼が戦前、社会主義に傾倒した結果投獄された時、親鸞によって社会主義から転向した訳ではなく、獄中で喀血し、結核による死の恐怖に直面して転向し、宗教心に目覚めたという。

学徒動員を余儀なくされた学徒が、背嚢の奥底に『歎異抄』を入れて出兵していった話は有名である。また大牟田俘虜収容所の所長で、上官からの命令を忠実に任務遂行した為に、戦後、東京裁判で死刑判決を受けて、刑死した福原勲元大尉は、教誨師花山信勝師の説法を契機に宗教心に目覚め、念仏往生を遂げたという(『中外日報』2010年8月5日号・7日号「終わらない戦後」㊤㊥)。

不安と希望はコインの裏表の関係であるが、絶望と希望とは、やなせたかし氏の詩にもあるように、ある程度距離のある「隣同士」の関係とも言える。隣同士の絶望と希望の間にある溝を埋めるには、何らかの契機が必要となる。希望が未来に対する感情である以上、絶望の淵から脱するためには、何らかの形で新たに「未来」が再構成される必要がある。それは絶望感の根本的原因の解消ではない。根本的解決が可能であれば、そもそも絶望感は生じない。絶望感をもたらした原因とは別の事象で、新たに未来を構築する必要がある。

三木清没後80年に寄せて 室井美千博氏11月7日

志半ばの獄死 「三木清氏(評論家)二十六日午後三時豊多摩拘置所で急性腎臓炎で死去した。享年四十九、兵庫県出身。三高講師を経て独仏に留学、帰朝後法大教授、著書に歴史哲学その…

三木清 非業の死から80年 岩田文昭氏10月27日

三木の思索の頂点なす著作 三木清(1897~1945)が豊多摩刑務所で非業の死をとげてから、今年で80年を迎える。彼が獄中で亡くなったのは、日本の無条件降伏から1カ月以上…

《「批判仏教」を総括する⑦》批判宗学を巡って 角田泰隆氏10月20日

「批判宗学」とは、袴谷憲昭氏の「批判仏教」から大きな影響を受けて、松本史朗氏が“曹洞宗の宗学は、「伝統宗学」から「批判宗学」に移行すべきではないか”として提唱した宗学であ…

各地で出没するクマ 「殺生」に供養の心を(11月7日付)

社説11月12日

排外主義への警戒 日常レベルの交流が重要(11月5日付)

社説11月7日

宗教法人の悪用防げ 信頼回復のための努力を(10月31日付)

社説11月5日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加