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「死後」についての近代知(1/2ページ)

筑波大元教授 津城寛文氏

2022年5月31日 09時24分
つしろ・ひろふみ氏=1956年、鹿児島県生まれ。東京大農学部林学科卒業。同大学院宗教学宗教史学博士課程単位取得退学。筑波大元教授。博士(宗教学、国学院大)。『無きものとされた近代知――死者とのコミュニケーション』(アマゾンキンドルおよびネクパブ・オーサーズプレス)、『社会的宗教と他界的宗教のあいだ――見え隠れする死者』(世界思想社)など著書多数。

筆者はこのほど、『無きものとされた近代知――死者とのコミュニケーション』と題する著書を刊行した。「無きものとされた近代知」というのは、具体的には19世紀後半からの英米を中心に行われた心霊研究が、近代的な学知になりそこねたこと、とくにそこでの実験や記録の原資料までが無視されてきたことを指している。その「無きものとされた近代知」の中の諸事実と理論的な反省のうち、良質なものを掬い上げるのが近書の目的である。

死後存続という課題

死すべき人間の死後の生命、不死性、「死者のスピリット」は、起源が辿れないほど古くからの神話知であり民衆知であり、反省をともなう神学知であり哲学知であり、実在や真偽を問わない芸術においては効果的な登場人物でありつづけている。そのリアリティについても、素朴な実在説と生者の構築説という両極端のあいだに、諸説が分布してきた。それが19世紀の欧米で、いくつかの事件をきっかけに、「近代スピリチュアリズム」「心霊研究」として改めて問題化した。そこで探究された「死後存続」「スピリット」の「事実」問題は、同じころに成立した比較宗教学においては論じにくく、じっさい正面から扱われてこなかった。私自身もこの40年ほどのあいだ関心を持ちながら、納得のいくように論じきることができなかったが、今回ようやく一定の目処を付けた手応えを感じている。

Ⅰ部「周辺問題」、Ⅲ部「関連問題」は、核心的議論の一歩手前の、歴史や人物のエピソードを解説する内容で、資料があればいくらでも書き加えることができ、読み物として読みやすいものでもある。他方Ⅱ部「核心問題」(3、4章)では死後存続説の理論的なコアの部分を集中的に扱っており、序章、終章とともに、本書のもっともオリジナルな部分である。クローズアップした論点は二つあり、一つは、死者の意志や人格は「センター」を持っているか否かという問題、もう一つは、「科学」が扱うべき「事実」の身分についてである。やや立ち入った面倒な話になることをご容赦いただき、このあたりを中心に紹介したい。

死者の「センター」

まず、死者の意識や記憶や情報、人格や個性までが死後存続しているように思われる現象を、生者たちの作用にのみ由来すると考えるか、あるいは何らかの自律的な死後存在を考慮するか、この問いに対する答えは二者択一である。死後存続を思わせる現象は事件としては否定しえないので、この両者を隔てるのは、死者の「自律的」な作用を考えるか否か、という一点にある。このような、死者の人格の自律性を論じる学知がありうるかどうかについて、1900年前後のウィリアム・ジェイムズの議論に焦点を当てて再検討したのが3章である。ジェイムズの心霊研究の論考(ほとんどが未邦訳)に出てくる表現を読みこんだ結果、ジェイムズが意識や意志の「センター」を想定しているのが確認できた。

4章では、現代のアーヴィン・ラズロの世界システム論に死後がどのように関わってくるか、交霊会での親密なエビデンスなどを契機とする回心的な変化を浮きぼりにしつつ、検討した。ラズロは近著で、死者が「自律性」を持つかどうかと自問して、強く肯定するに至っていることを確認した。

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