PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
2024宗教文化講座

人間には心の栄養も必要(2/2ページ)

シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザー 大菅俊幸氏

2023年3月23日 09時42分

アジアでの図書館活動は、最も困難な状況にある「子どもたち」が対象で、専門家の助力を得て「おはなし」や「絵本」を大切にした活動を展開したのだが、今回の東北では、「立ち読み、お茶のみ、おたのしみ」というスローガンを掲げ、移動図書館車に本を積み、仮設住宅を巡回する移動図書館活動を展開した。仮設住宅の皆さんが自由に本を手にとり、日々の楽しみや励みになり、お茶を飲みながら心の交流の場になれば。そう考えたからである。

「魂の治療所」としての図書館

17年3月、宮城県山元町でいよいよ最後の活動となる日。一人の若いおかあさんが私たちにお手紙を渡してくれた。そこには移動図書館への熱い思いがびっしり綴られていた。つい、熱いものが込みあげる。この活動の手応えを感じる時であった。今も私たちの宝ものである。一部抜粋となるがここに紹介しよう。

「何もかも失った。希望がまだ見えないころ、気持ちの切り替えもできなかったころ、この移動図書のおかげで、明るい、心待ちにする気持ちがもてました。それまでは『ああ、今日も一日終わった』と、今日を乗り越える事だけで、『明日』は、私の中に存在しませんでした。でも、『移動図書館が来る』と、カレンダーをもらってからは、『この日が楽しみ』と、思える気持ちが再びもてるようになったんです。嬉しかった‼本が読める事はもちろん、リクエストにも答えてくれて、その上、皆さんとお話しをするとホッとするという三拍子‼仮設を出てからも、その楽しみを失う事はありませんでした。(中略)皆さんと会えなくなるのがさびしいです。本当です。楽しいひと時をありがとうございました。すくわれました。一生忘れないと思います」

このような活動に、地元の公立図書館の関係者の皆さんも共感され、それぞれの活動に取り入れてくださるようになった。陸前高田市立図書館は、お茶を飲みながら利用者とおしゃべりをする会、「井戸端図書館」を定期的に行うようになった。山田町立図書館や南相馬市立図書館は移動図書館を始めることになった。

こうした活動に賛同され、図書館学の小林卓先生(実践女子大准教授)が次のように教えてくださった。「かつて古代ギリシャの都市テーベにあった図書館の入り口には、『魂の治療所(心の薬局)』という銘刻が掲げられていたのです。心の問題解決のために本が用いられていたのでしょう」

時代や地域や形は異なれど、東北での活動を通して、私たちは「魂の治療所(心の薬局)」としての図書館の原点を発見したのだと思っている。

SDGsに欠けた文化

さて、現在、世界中でSDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいる。ただ、一つ気になっていることがある。それは、そこに文化という言葉が一つも見当たらないことである。なぜなのか。おそらく「人間には体の栄養ばかりでなく、心の栄養が必要」という認識が欠落しているか、あまり大切に考えられていないからではないかと推測する。だとすれば、そこにSDGsの弱点があるのではないだろうか。

人間と自然を一体と捉え、身体とともに心の健康も大切にされ、一人ひとりの尊厳が重んじられる社会。そのトータルな調和があってこそ、願わしい人間社会に近づけるのではないだろうか。もっと文化を大切にした開発、一人ひとりの心の健康、心の栄養を大切にした開発でなければならない――。切にそう思っている。

ちなみに今年の1月1日、朝日新聞にノーベル賞作家アレクシェービッチ氏のインタビューが掲載された。その中に「わが意を得たり」と思う言葉があった。それを紹介してこの稿を結びたい。

「私たちが生きているのは孤独の時代だと言えるでしょう。私たちの誰もが、とても孤独です。人間性を失わないためのよりどころを文化や芸術の中に探さなくてはなりません」

高野山奥之院の秀吉五輪塔 木下浩良氏5月13日

長い銘文刻む五輪塔 豊臣家墓所は、高野山奥之院の御廟橋の手前に所在する。参道から20段程の石段を登ると、眼前に広がる墓域が現れる。その一画がそれである。正面には8基の石塔…

重要文化財新指定の「中山法華経寺文書」その全貌 中尾堯氏5月1日

日蓮宗の大本山として知られる中山法華経寺の古文書839点が、令和5年度の国の重要文化財に新指定された。すでに指定を受けている国宝・重要文化財76点を加えると915点にも上…

「浄土宗の中に聖道門と浄土門がある」 田代俊孝氏3月18日

浄土宗開宗850年をむかえて、「浄土宗」の意味を改めて考えてみたい。近時、本紙にも「宗」について興味深い論考が載せられている。 中世において、宗とは今日のような宗派や教団…

平和を力強く訴える 問われる宗教者の役割(5月15日付)

社説5月17日

消えゆく他者への共感 その先に見える世界は?(5月10日付)

社説5月15日

大きな変動の背景 国外の宗教問題への関心を(5月8日付)

社説5月10日
このエントリーをはてなブックマークに追加