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宋・福州版大蔵経の特徴と「謎」をめぐって(1/2ページ)

立正大教授 野沢佳美氏

2023年5月1日 10時08分
のざわ・よしみ氏=1958年、山梨県生まれ。立正大大学院文学研究科史学専攻博士後期課程研究指導終了。博士(文学)。立正大文学部教授。東洋史(中国近世史)・版本学。著書に『印刷漢文大蔵経の歴史―中国・高麗篇―』『新編 大蔵経―成立と変遷』など。

神奈川県立金沢文庫では、3月21日まで特別展「旅する、大蔵経―称名寺所蔵宋版一切経の道程」が開催された。同文庫が保管する称名寺所蔵の宋版一切経(以下、文庫本と略)は、北条実時の命を受けた僧・定舜が弘長元(1261)年に中国(南宋)から請来した2蔵(2セット)の一つを称名寺に納めたものである(いま一つは西大寺に)。

称名寺蔵は福州版

10世紀後半に建国された宋朝(北宋)によって世界初の印刷大蔵経がいまの四川省で開板された(開宝蔵、5048巻)。その後、北宋末南宋初(11世紀後半~12世紀半ば)の福州(福建省福州市)では東禅等覚院(のちに東禅寺に昇格)、引き続き開元寺において新たな大蔵経開板の事業が衆縁を募って始まった。それぞれ東禅寺蔵・開元寺蔵と呼称され、福州版と総称される(ともに6300巻余)。この福州版が平安末~鎌倉期の日本に多く輸出されており、文庫本もその一つである。

文庫本の悉皆調査が1993(平成5)年度から4年間行われ、筆者も参加する機会を与えられた。調査の成果として『神奈川県立金沢文庫保管宋版一切経目録』(98年3月)が刊行された。筆者はこの目録に一文を寄稿したが、四半世紀が経過するなかで研究環境の進展もあり、改めて日本現存の福州版大蔵経の特徴とその「謎」の一端を考えてみることにしたい。

日本に輸入された福州版は22蔵との集計がある(大塚紀弘氏『日宋貿易と仏教文化』)が、まとまって現存するのは文庫本のほか、知恩院・金剛峯寺・醍醐寺・本源寺・東寺・宮内庁書陵部等の各所蔵本である。文庫本の悉皆調査時点で詳細な目録が刊行されていたのは金剛峯寺本と本源寺本のみであった。

近年、醍醐寺本の詳細な目録である『醍醐寺蔵宋版一切経目録』(全6冊、汲古書院、2015年)が刊行され、さらに17年より書陵部本の全巻画像がウェブ上で公開される(「宮内庁書陵部収蔵漢籍集覧」)という僥倖が続いた。かかる研究環境の進展によって、平成時の調査では不明な点が次第に明らかになる反面、かえって新たな「謎」も出現したのである。

こんにちまでの研究成果をも含め、福州版両蔵の主な特徴をまとめると以下のようである。
(1)「巻子本」の開宝蔵に対し、福州版では「折本」形式が採用される。
(2)日本現存の福州版はいずれも両蔵の混合である(混合蔵。他版を含む場合あり)。
(3)両蔵とも一部を除き、巻首に開板費用の寄付を募る趣旨を刻んだ「題記」がある。
(4)福州版では1函(10帖)ごとに音釈(音義)が別帖仕立てである。
(5)巻末に開板費用を寄進した者の姓名・願文等を記した「開板施財記」がある。
(6)巻末にその帖を印刷した印工(摺り師)の印が捺されている(印造印)。
(7)両蔵の板木で刷られた用紙を貼り継いで1帖としたものがある(混合帖)。
(8)開元寺蔵仏典には巻首の3行分が空白となっている帖がある。
(9)開元寺蔵仏典には紙数を意図的に減らしたとみられる帖がある(偽装帖)。
(10)板木の補修費用を拠出した者のなかに多くの日本僧の名が散見される。

(1)や(5)のように、その後の印刷大蔵経に引き継がれた特徴もあるが、他は福州版のみの際立った特徴といえよう。これらはのちの印刷大蔵経と比較しても「謎」ともいうべき特徴である。全ての「謎」に言及できないが、福州版を最も象徴する「混合蔵」について、以下で私見を述べてみたい。

宋代中国では1種

日本現存の福州版はいずれも両蔵の仏典による混合蔵であることから、幕末・明治期の浄土宗の僧・養鸕(鵜飼)徹定師は両寺が協力して一蔵を開板したと考えたほどである。のちに常盤大定・小野玄妙の両氏によって別個に開板されたことが証明されたが、なぜ日本現存の福州版は混合(混合の状況は各所によって異なる)されているのか、大きな「謎」となっている。

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