AI技術暴走の危惧 宗教界からの倫理提唱(2月28日付)
Chat GPTや画像生成などAIは私たちの日常生活にも存在感を高めている。最近は入力した言語からリアルな画像を生成できる機能が話題になった。今のところ、利便性の向上が注目されることが多いが、加速度的に発展するAI技術の発展には戸惑いや危惧もあらわれている。
AI技術によって人間の仕事が奪われるのではないか、真偽の区別がつきにくくなり犯罪にも利用される、その技術は戦争にも広く活用されるに違いない、などといった不安は今の現実の範囲内にみえてくるものだが、AI技術の暴走的進化が人間の制御を超えるものになる可能性も否定はできない。
文明の発展過程で技術は近年、加速度的に進歩し、人間の活動が自然に影響を及ぼして、地層に「人新世」といわれる刻印を刻むまでになったが、その延長上のAIの進化で、「人間とは何か」ということが問われ、人間を中心とした現在の考え方さえ相対化することが迫られるかもしれない。
宗教界でも、AI技術の進化が提示する問題を検討する動きが始まっている。2020年2月に教皇庁生命アカデミーやマイクロソフト、IBMなどが署名した「AI倫理を求めるローマの呼びかけRome Call for AI Ethics」は、「この種の文書としては初」(バチカンニュース)とされる。
そこではAIの倫理的使用の基準として①AIシステムは説明可能な透明性が必要②全ての人間のニーズを考慮しなければならない③AIを設計、導入する者は責任と透明性を以てこれを進めなければならない④公平性と人間の尊厳を護るため偏見に基づいて作成・行動してはならない⑤AIシステムは確実性、信頼性を持たねばならない⑥AIシステムは安全に、かつユーザーのプライバシーを尊重して運用されねばならない――の六つの原則が挙げられている。
昨年1月にはキリスト教、イスラーム、ユダヤ教の宗教者らが参加してローマでAI倫理に関する国際会合が開かれているが、今年7月には教皇庁生命アカデミー、WCRP日本委員会等の共催により広島で同じ趣旨の会合が開かれることになっている。前者の会合の出席者と、日本・アジアの宗教者が参加。研究者の提言を聴取し、テクノロジーの発展、AIの倫理と宗教者の役割などを協議して、アピールを発信するという。
AIの進化に対し、宗教的叡智はどう対応するか。社会への発信も、大きな意味を持つに違いない。会合が実りあるものとなるよう期待したい。