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奪われた故郷 原発事故被災地で(3月13日付)

2024年3月15日 09時01分

東京電力福島第1原発の事故による福島県浪江町津島地区などの帰還困難区域が12年ぶりに一部解除されてからこの3月で1年。しかし広大な汚染地区のわずかな部分にすぎない上、生活環境も整っていないことから住民の帰還はほとんど進まず、地元の住職も「町の将来が見えない」と嘆く。

福島市から浪江町の沿岸部につながる国道114号を走ると山間の津島地区に至る。避難指示で長年無人だったため荒廃した街並みが続く。昨年、避難指示解除で通行可能になった元のバス通りに入ると、一軒の瀟洒な家の前で住民夫婦が掃除や除草に追われていた。

一家で千葉県に10年間避難していて、最近は隣町に居を構えた。だが、「住み慣れた愛着のある家なので手入れには通うが、生活できる状況じゃないので津島に戻る気はない」ときっぱり話す。

確かに辺りは崩壊した家屋がまだまだ並び、解体後の空き地も目立つ。診療所の前には車が朽ち果て、元の役場支所や古い神社は背丈以上の雑草に囲まれていた。もちろん商店などは荒れ放題のままで、住民が暮らしている様子は見えない。かつてグラウンドが除染の汚染土仮置き場になっていた小中学校は廃虚と化している。

そんな状況で避難解除されたのは津島以外も含め、町面積の8割を占めた困難区域全体のわずか4%。「国道周辺だけ除染して帰還せよと言われても住めるはずがない」。僧侶らが原発事故被災者を支援する団体には、津島から関西へ避難中の住民からこんな訴えが届いた。自宅の解体費は解除後1年なら公費援助だが、その後は放射性廃棄物処分も含めて750万円ほどかかる費用が自己負担だ。更地にした後は固定資産税が何倍にも跳ね上がる心配がある。

「山里でのどかに暮らしていて何の落ち度もないのに、なぜこんな目に」と嘆くこの住民の親戚には、避難先に東京の不動産業者から土地買い取りの打診が来たという。福島県内各地では「復興」の掛け声でITやロボット、高度医療など先端産業の開発がめじろ押しで、先行投資も盛んだ。「避難先の住所は町役場と東電にしか知らせていないのに」と訝しがる。

町によると事故前の津島の住民登録は329世帯だったが、帰還前提の準備宿泊はわずか10世帯。2万1千人だった町人口も2千人程度しか戻らず、住民アンケートでは5割が「戻らない」と回答した。長期の避難生活を苦に自死した高齢者の弔いも経験し、原発を批判してきた地元住職は「住民には諦め感も広がっているが、これでいいのか」と語気を強める。

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