地球を危機に陥れる カネがカネを呼ぶ社会(3月15日付)
いささか意外に思うが、富の過度な集中が気候危機の主因の一つだという。例えばフランスの経済学者トマ・ピケティの世界不平等研究所がまとめた直近の「世界不平等レポート」2022年版によると、19年に世界で裕福な10%(8億人弱)の人々が二酸化炭素総排出量の47・6%を排出した。逆に貧しい50%(40億人弱)の人々の排出量は12%にとどまった。
著名な国際NGO「オックスファム」も昨年末、19年の時点において世界で1%の最富裕層が二酸化炭素排出量の16%を排出し、これは貧しい約50億人分に匹敵するという報告書を公表している。
富裕層は金融の規制緩和や資産運用、特に株式への投資がコロナ禍の景気刺激策などによる株高の恩恵を受け、富を重ねた。資産は増えるほど富の拡大も早く、いわばカネがカネを呼ぶ。日本でも先月、平均株価がバブル期の史上最高値を約34年ぶりに超えた。
富裕層は石油、石炭、ガス製造など二酸化炭素を多く排出する大企業への投資でも利益を得、プライベートな宇宙旅行、ジェット機やヘリコプター、豪華ヨットを乗り回して大気を汚染している。
「世界では350隻のクルーズ船の中で常に50万人の人々がダンスやギャンブルに興じている。これは貴重なエネルギーの使い方として尋常ではない」。富裕層のライフスタイルへの批判論集には、そのような文章も見受けられる。
富める者ほど地球環境に大きなダメージを与えているという倒錯した構図は、大多数の人々の不公平感を募らせ、社会の分断を招いている。それは環境保全対策の立案と実効性にも影響していよう。
そもそも富は他者がいるからこそ得られる。初期仏典は在俗の人々に営利の追求と蓄財は奨励するが、隣人が苦しんでいるのに自分だけが快楽を享受してはならぬと繰り返し強調している(中村元『仏典のことば』から)。今の経済は仏教の教えの対極にあるようだ。カトリックの教皇フランシスコも「この経済は人を殺します。路上生活に追い込まれた老人が凍死してもニュースにならず、株式市場で2ポイントの下落があれば大きく報道されることなどあってはならない」と著書『福音の喜び』に記している。
現在、世界の破局を予感させるような洪水や干ばつ、海面上昇などの脅威を経験しているのは気候危機には責任のない途上国の人々だ。先進国でも貧富の格差は広がっており、そんな混濁の世であるからなおさら、現代文明を根本的に問い直す宗教者の努力が求められているのではないだろうか。