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震災犠牲者名の慰霊碑 一人一人の命見つめる(4月10日付)

2024年4月12日 14時34分

東日本大震災から13年が経過した。毎月命日に犠牲者遺族のケアの集まりを続ける宮城県石巻市の住職は、震災当時、檀家だけで180人の死者を葬儀で送ったが、「それは決して人数の多さではなく、一人一人に名前と同様にそれぞれかけがえのない人生があった」と今も力を込める。

最大級の被害が出た石巻でも、寺のすぐ前の臨海地域では500人余りの犠牲者があり、その跡地に行政が広大な公園を造成した。「死者への弔いの気持ち、遺族の悲嘆への向き合いなしに復興もあり得ない」とする住職は、「追悼公園」とすることを主張したが、施設名は「復興祈念公園」になった。せめて死者を悼むためにと求めた犠牲者氏名の慰霊碑が設置されたのは、震災10年後だった。

公園の碑には市内の全犠牲者4094人のうち、遺族の同意があった3695人の名前を刻んだプレートが地域ごとに並ぶ。それを前にするたび、住職の口からは様々な思い出が語り出される。まるで、その人たちがこの地で生きていたことを証明するかのように。

元気だった頃の姿、顔、声や口癖が浮かぶ。長年の檀家も、同窓生も親しい友人もいる。「『和尚さん』と呼ぶ声が聞こえるようです」と。だが、身内が皆亡くなって母親一人になった家など、どんな話をしても重い悲しみが込み上げる。

夫が「大丈夫」と言ったので自宅にいて逃げ遅れた家族。夫はいつまでも悔やみ続ける。地震の前に勤務先の事業所長が外出先から「戻るまで職場にいて」と告げたために従業員たちが居残り、津波に流された。19歳だった女性は何日も後になってから離れた建物の屋上で発見された。成人式の衣装選びを楽しみにしていた娘の変わり果てた姿に、親はそれでも「見つかって良かった」と涙した。

津波警報に、たんすの大事な衣類をバッグに詰め込んでいて避難のタイミングを失った母娘。街を包んだ猛火で建物が全焼した場所で、焼け焦げて残った女性の遺体の一部に、夫は「妻に違いない」と住職に訴えた。碑に名前があってもまだ行方不明の人も多いのだ。

碑の近くに建てられている「がんばろう!石巻」の大看板にさえ、「ぎりぎり自死しないように耐えているのに、これ以上どう頑張るの?」と訴える遺族は、3月11日に追悼のために市中に鳴らされるサイレンにも、あの日の警報サイレンに続く地獄の様相がフラッシュバックして耳を覆う。そういう底なしの悲嘆に向き合いながら、住職は宗教者としていのちを見つめ続ける。

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