大仏師が教える仏像彫刻の深すぎる世界…江場琳觀著

仏像には様々な種類、像容がある。主には如来・菩薩・明王・天に大別され、さらに細分化していくとその種類は数百とも数千ともいわれる。姿の違いだけをとっても実に奥深い。人々が仏像に引きつけられる理由の一つには、諸仏諸菩薩が持つ多様な造形美が挙げられるだろう。
本書は、仏師として愛知県長久手市に工房を構える著者が、仏像鑑賞の見どころを作り手の視点も交えて解説する。法隆寺や東寺といった古寺の著名な仏像のほか、自ら手掛けた仏像の写真を多数掲載し、彫刻や彩色などの技法についても紹介する。
仏師による仏像解説の本はさほど珍しくない。鑑賞のガイドブックも数多くある。本書がそれらと異なるのは、木塊から仏像の姿を現出させる者としての哲学、矜持のようなものを感じさせる点と言える。
仏像彫刻には、脈々と受け継がれてきた様々な決まり事がある。そうした中「ルールから逸脱するかしないかというギリギリのところを攻める感覚で、どこまで行けるかということを常に考えている」と著者は語る。仏師であり表現者としての信条だろう。仏像は見るためだけの造形ではなく、祈りの造形である。仏像に引かれるもう一つの理由が、本書から読み取れるだろう。
定価2750円、東京書籍(電話03・5390・7531)刊。