消えた象徴
自身の栄華を満月に例えたのは平安時代の藤原道長であった。昭和の元首相にとって、あの邸宅こそ望月だったのかもしれない。1月8日、東京都文京区の田中角栄元首相邸が火災に見舞われ全焼した◆「目白御殿」と呼ばれた田中邸は、権力と金脈政治の象徴とされた。同時に自民党政治、派閥政治のシンボルであり、派閥を巡る様々なドラマもまた、田中邸を舞台に繰り広げられた◆その派閥が今、岐路に立っている。最大派閥・安倍派によるパーティー券収入の裏金化問題を発端として、同派だけでなく総裁派閥の岸田派、二階派などが相次いで解散を決めた。ただ、派閥解消によって自民党は変わるのかとなると、期待感は薄い◆裏金問題で問われているのは派閥の存在の是非ではない。不透明な金が必要とされる政治の在り方だろう。解消すべきは政治とカネの問題であり、有権者の政治不信であることは言うまでもない。よもや、看板を付け替え新たな派閥をつくるようなことがあれば、国民の不信は絶望に変わる◆「弱いから派閥ができるのか、それとも派閥ができるから弱いのか。いずれにせよ、派閥が存在するようなチームが強いわけがない」。ノムさんこと故野村克也氏の語録にある(『野村の極意』、ぴあ)。強い政党とは何か。政治家にとって力の源泉は何であるべきか。与野党を問わず、考えるべき課題である。(三輪万明)