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釈尊と衆生の親子的関係 ― 経典に多くの表現事例(2/2ページ)

立正大准教授 田村完爾氏

2014年2月26日
【方等時】

智顗は大多数の大乗経論を、小乗の後、釈尊の40歳代周辺に配して方等時と称する。『維摩経』では菩薩と衆生の関係を父母と子に比し「智度(般若波羅蜜)を菩薩の母、方便を菩薩の父」とする。『勝鬘経』では、正見(正しい物の見方)を「仏の真の子」とする。また摂受正法の(=如来を宿している)善男善女を世の法母とする。この経は女性の勝鬘が中心となり、菩薩の母の面が示される。また、経の主題の「如来蔵(一切衆生は如来を宿している状態にある)」という発想自体が母の面を示している。

『大集経』では、仏菩薩を父母・父・母に擬する説示が、それぞれ3箇所・5箇所・5箇所ほどみえるが、一方で法を母に比する説示が17箇所程度も見え、この点が特徴的である。真諦訳『摂大乗論釈』では仏を父、般若を母に比す。『仏性論』では布施を母、仏性を父・母、『宝性論』では菩薩を父母、般若を母とする。

【般若時】

般若経典は釈尊が50~70歳位の教説とされる。『大品般若経』『金剛般若経』『仁王般若波羅蜜経』『中論』『百論』『十二門論』等には、仏菩薩自体を父母に比する説示はない。この点は小乗の基本線を踏襲しているようである。ただし『大品般若』の注釈書『大智度論』では、仏菩薩を父母・父・母に比する表現が、それぞれ18箇所・14箇所・12箇所ほどみえる。つまり龍樹門下が積極的に父母に比する発想を導入したことが分かる。

さらに『大智度論』(引用の『大品般若』本文を含む)では、般若を「仏の母」(17箇所)、「菩薩の母」(8箇所)とする。例えば衆生の父を仏に、仏を出生する般若を祖母に比す。また、母の功を父の上に置き、母たる般若を讃える。般若を母、五波羅蜜を父に比す箇所もある。さらに仏の大慈悲を善き母、般若を美しき乳とし、般若と融合する仏の母としての面が描写される。仏と菩薩の父子的関係も散見されるが、全体的な基調は般若の母の面が強調され、仏菩薩もその中に包まれているようにみえる。

【法華涅槃時】

『妙法蓮華経』は明確に釈尊と衆生との父子的関係を重んじる。仏陀を直接的に父に比する事例は56箇所、経を父に比する表現が1箇所みえる。仏を親に擬すが、「母」「父母」とは表現しない。つまり一貫して釈尊を父としているようである。そして三車火宅喩・長者窮子喩・良医治子喩などの寓話を用いて、釈尊と衆生の不可分の必然的な父子の絆を示唆し、これに基づく慈悲・感応・教化等を説述する。

大乗『涅槃経』(南本)では、諸経論に広くみえる仏菩薩の「一子地(親が一人子を想う境地)」を極めて重んじ、仏菩薩を父母(22箇所)、父(7箇所)、母(8箇所)に擬す。また仏性を「諸仏の母」とし、「慧は一切の善法の根本、仏菩薩の母の種子」とも説く。『涅槃経』は『法華経』の影響を受けており、釈尊の父としての面もあるが、如来蔵思想の強い影響下にあるので、母の面の方が強いようにみえる。

【智顗の説示】

このように多くの経論に仏を父母に擬する箇所があり、世界宗教の一角である仏教においても、絶対者と人類(または信仰者)に親子関係を見ていることが分かる。智顗は主に『法華経』『華厳経』等に基づき、釈尊と衆生との父子的関係を重視する。特に『法華経』の長者窮子喩(長者が乞食に堕ちた息子を教育して全財産を譲る寓話。釈尊一代の衆生教化に比される)、良医治子喩(良医が、誤って毒薬を飲んだ子供たちに良薬を残し、他国で逝去したという方便を用いて、子供たちに良薬を飲ませる寓話)等を父子的関係の根源に置き、父子を繋ぐ仏性・仏種・感応等の要素を提示する。そして梁代の学僧・光宅寺法雲の説を受け、『孝経』の「天性を会して父子を定める」という儒教的父子関係を活用し、天性を仏性に転換し、仏種を介した感応に基づく不可分の父子関係があると明示するのである。

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