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自死予防と精神科医療 ― 安易な診断・投薬が自殺増やす(2/2ページ)

精神病理学者 野田正彰氏

2015年11月6日

本人は分かっていないが、向精神薬の薬理作用によって、当初、眠れない、食欲が落ちたぐらいの症状が、一気に身体のなんとも言えない怠さ、情動不安、衝動性の亢進へと追いこまれていったのである。しかも中枢神経に作用する向精神薬、とりわけ抗うつ剤の新薬は中毒(医学用語では「依存」と上品に言う)作用が強く、止めると以前に増して不安定(これも「離脱症状」と呼び、あいまい表現に置きかえられている)になる。そのため減薬への指導ができる精神科医と家族の濃密な支持なしには、断薬の難しい人が多い。

そもそも職場や家庭での悩みが、薬を飲んでいるうちに消えていくと信じる方がおかしいのではないか。せいぜい大脳に気力が増してきて、悩みを自力で吹き飛ばせるようになるとでも思っているのだろうか。

予防活動が逆効果

なぜ愛する人は亡くなったのか。自死遺族の会合では、上記のような避けて通れない精神科医療の問題に突き当たる。全国自死遺族連絡会の調査では、2900人の会員のうち9割ほどが精神科を受診、向精神薬を服用しながら自死に至っているという(2014年)。特に20歳代、30歳代で比率は高い。

1990年代終わりより心の病気づくりと薬の濫用がすさまじい勢いで進んできた。うつ病、双極性障害、PTSD、アスペルガー症候群、発達障害、自閉症スペクトラム、大人の発達障害など、全て病気宣伝による病気づくりである。例えばうつ病。自殺対策基本法が作られ、毎年200億円の対策費を使って各地でキャンペーンが行われた。

「お父さん、ちゃんと眠れてる?」……→「もしかしたら、うつかもしれない」の大合唱となった。その成功地域として、NPO「ライフリンク」や各県担当部局が喧伝した静岡県富士市の「富士モデル」では、実は不眠・うつ病キャンペーンを行った翌年より自殺者が2割増え、翌々年はさらに2割増え、07年には51人だったのが09年には71人になり、翌10年には72人になっている。さらに富士モデルを真似た滋賀県大津市ではキャンペーンの翌年に23%増になっている。自殺予防が自殺を増やす。不安にさせた上で、安易な診断と投薬によって自殺を急増させたのであろうが、その後、何が起こったか、「富士モデル」はひた隠しにされてきた。それでも不眠・うつ病キャンペーンは今も広く続いている。

もうひとつだけ統計を挙げよう。厚労省の精神保健福祉資料によると、精神科病院における月間死亡退院者は1882人(11年6月)。同年9月の患者調査(別の統計)では2100人が死亡退院している。しかも77%の人が1年未満での死亡である。03年は1242人だったので、近年、急増していることになる。死ぬ病でない精神病での患者が、なぜこれほども死ぬのか。全て薬の毒を指し示しているが、調査は拒まれたままである。

米国式障害づくり

ここに至る薬害の経過は次のように進んできた。1970年代末から80年代、大国アメリカの精神医学会によって、チェックリストによる安直な精神障害づくりが始まった。それに合わせて、新薬作り(20年間の特許法に守られて、旧薬ほども効果のない薬が、新薬として数十倍の値で売られる)、新薬への臨床試験受託会社による多施設臨床試験が行われるようになり、自殺などの副作用が報告された臨床試験全体を隠蔽、統計的に少しだけ効果があったかのように装われた試験のみが提出され、医療のマーケティングに精通した医学論文作成会社のゴーストライターによる論文作成が一般化した。かくして新薬として認可されると、市民への病気宣伝と医師への薬品名刷り込みが億単位の予算で行われてきた。日本うつ病学会など、学会までも製薬会社主導で作られ、患者会も、NPОもその支援を受けている。

自死問題に取り組もうとする宗教者、宗教教団は薬漬けになっている現実に目をつむって活動すれば、必ず薬を飲ませる流れに飲み込まれる。生きる悩み、生きる悲しみを、うつ病と抗うつ剤中毒から取り戻す仕事こそ、宗教者の仕事ではないのだろうか。

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