PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

守るべき国とは何か ― 「自由と平等」目指す自由の国(2/2ページ)

真宗大谷派教師 兪渶子氏

2016年3月2日

今、沈黙に寛容であることは、不誠実な選択だ。沈黙をやぶり声を上げることこそ、過去を救い未来に応えることだ、と思う。

「戦争反対」と言うことができなかった時代が再び私を覆う日が来ないように。過去から学び、そこにとどまることなく、未来へ発信する言葉に生きよう。

死ぬまで生きよう

私は10代の頃、桜の花が嫌いだった。否、「死んで桜の木の下で会おう」と表された、そんな桜が嫌いだった。

春、満開の桜の木の下でお花見する人々を横目で見ながら、ちょっとの気恥ずかしさと、蔑みを感じてしまう。それは美しい桜に嫌悪感を持つ自分に対しても思う思春期の閉塞。

人と出会い、自分を発見するように、一本の木にも出会う、その時があるのだろう。遅い春の日、桜の花が好きな私を発見した。ハラハラと散る情緒を誘う桜花ではなく、ひと吹きの風に舞い上がる桜の花を見た時、心が開かれて行く思いがした。そう、人間は切なく散り行く桜に、自分のいのちを託すように死んで再会を誓うこともするが、舞い上がる風の中の桜花に、生きる力を得ることもできる。

人間がこの世に生まれたことの意味は、死ぬまで生きること。「人間の仕事は死ぬまで生きることです」と、浄土真宗の教えの前に立った頃、藤元正樹師に教えていただいた。死ぬまで生きるいのちを、人間性を捨てなければ生きられない戦争の時代に、どう人間を見捨てず生きぬくことができるだろうか。

人間は過ちを犯す、過ちを犯すのが人間だ。何事も縁だと、いつか聞いた。だが「戦争もその国の縁でした」でとどまっている僧侶がいるならば、「だからこそ」のひと言が足りないと言わなければならない。「だからこそ」、人は人間の規範として、いのちはいのちを殺してはいけないと。いのちを殺す戦争に反対しよう、と伝えなければならないはずだ。

「さるべき業縁のもよおせば、いかなるふるまいもすべし」(『真宗聖典』真宗大谷派出版部発行、634ページ)

宗祖親鸞聖人の人間把握のひと言は、弟子の唯円によって残された言葉は、人間は縁があれば人をも殺す、と言っている、私が人を殺さなかったのは、その縁がなかっただけだ。善人なんかじゃない、と悟られた深い教えだった。

何でも仕出かす人間だから、志願するのは平和。そして、戦争がない、ということだけが平和ではない。平和とは何か、と問い続け、たゆみなく平和を志向する精神だけが、人は人を殺さずに生きてゆける平和という大地を知るのだと思う。

今こそ兵戈無用を

危うい時代に欺瞞がはびこる。優しさの影に安易な同情が潜む。戦争を前提にした紛争の解決を言う人々の言葉は、戦争の悲惨な時を考える思考が停止している。

守るべき国とは何か。

靖国を問う時、私によぎるのは、美しい桜の木の下で再会を約束し、「英霊」となったという戦死者ではない。美化された死の悲しみだ。二度と戦争で死ぬことがないように、守るべき国は「自由と平等」を目指す自由がある国。それは生きて働いて、愛して、死ぬまで生きられる国のことだ。その国を志願することの自由は、私が私であることの自由。

閉じ込められた、いのちを取りもどし死者と共に生きよう。

「兵戈無用」。軍隊も武器も無い国こそが安穏な国と、教えられた仏教徒の一人として、沈黙を破り声を上げよう。

未来の時のため……。

宗教の公共性と倫理的責任 溪英俊氏12月12日

宗教への信頼ゆらぎと問い直し 2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題が社会的注目を集めた。オウム真理教地下鉄サリ…

“世界の記憶”増上寺三大蔵と福田行誡 近藤修正氏11月28日

増上寺三大蔵と『縮刷大蔵経』 2025年4月、浄土宗大本山増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書(以下、増上寺三大蔵)がユネスコ「世界の記憶」に登録された。 三大蔵とは思渓版…

カピラ城比定遺跡巡る現状 村上東俊氏11月21日

失意の落選も価値は変わらず 釈尊出家の地と目されるティラウラコット遺跡の世界遺産登録が見送られた。この一報を聞いた時、全身の力が抜け落ちる感覚に襲われた。ユネスコ第47回…

文明の効用 利便性から何が得られるか(12月10日付)

社説12月12日

緊張続く日中関係 仏教交流の意味に期待(12月5日付)

社説12月10日

正義に殉ずるとは 映画「ボンヘッファー」で(12月3日付)

社説12月5日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加