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実範の中川寺成身院 ― その密教寺院としての意義(2/2ページ)

京都大准教授 冨島義幸氏

2016年8月24日

さらに中川寺成身院には、本尊として金剛界大日如来像が安置されていた。空海の宮中真言院や東寺灌頂院では、両界曼荼羅の他に本尊はなかった。正統な密教空間を継承しつつも、大日如来像を加えたところに中川寺成身院の独自性がある。

中川寺成身院が創建されると、大日如来像と両界曼荼羅を合わせて安置する仏堂が立て続けに建立される。まず、直後である永久3(1115)年、醍醐寺座主勝覚が醍醐寺に三宝院を建立する。初めに挙げた後半の指図がこの醍醐寺三宝院で、三宝院も中川寺成身院と同じく小野流の密教を受け継いでいる。三宝院では、向かい合う両界曼荼羅の間、後方に3尺(立像で約90センチ)の大日如来像が安置されていた。ここでは灌頂のほかにも、鳥羽天皇の御願により両界供養法が修されていた。

つづいて覚鑁も長承元(1132)年、鳥羽上皇の御願寺として高野山に、丈六(立像で約4・8メートル)という大規模な大日如来を中尊とする大伝法院を供養する。中川寺成身院は、覚鑁の大伝法院の先蹤と位置付けられよう。

中川寺成身院の周辺では、浄瑠璃寺の灌頂堂に安置されている金剛界大日如来像(重要文化財)が見落とせない。平安後期作の3尺規模の小像で、承安元(1171)年に供養された秘密荘厳院(後の真言堂)の本尊と考えられる。この仏堂では両壇による供養法、すなわち両界曼荼羅による両界供養法を修したというので、両界曼荼羅を懸けていたことになる。

平安時代後期の仏教と大日如来・両界曼荼羅

大日如来・両界曼荼羅の重視は真言密教に収まるものではない。平安後期は、いわゆる「浄土教」が隆盛すると考えられているが、実は天皇・院の伽藍に両界曼荼羅が顕現する時代でもあった。その画期であり代表が、白河天皇の法勝寺である。法勝寺では、大極殿に匹敵する巨大な金堂と、当時の京都で最も高い81メートルもの八角九重塔を建立し、それぞれ胎蔵界・金剛界の諸尊を安置して、京の都市空間に両界曼荼羅を掲げることになった。

一方の奈良においても、平安時代後期に大江親通が著した『七大寺巡礼私記』には、東大寺大仏殿の大仏を大日如来と呼んでいたと記されている。大仏は顕教、すなわち奈良時代からの仏教の毘盧遮那仏であるとともに、密教の大日如来でもあった。

中川寺成身院の仏教史的意義

密教には呪術というイメージが付きまとう。しかし、これは一面的な理解でしかない。両界曼荼羅に表れた密教の仏教的世界観は、顕教はもちろん、仏教の枠をこえた様々な信仰と融合し、中世の思想において重要な意味を持っていた。密教の正当な位置付けなくして、日本中世の宗教・文化・社会を正しく語ることはできないであろう。

奈良でも南都焼き討ち後、後白河法皇の主導で再建された東大寺大仏殿では、大仏を大日如来、さらに両界曼荼羅とみなして密教の両界供養法を修した。東大寺再興で大勧進を務めた重源は醍醐寺で密教を学んだ密教僧であったし、重源を支えた東大寺別当勝賢は醍醐寺座主でもあった。実範の師範俊が院主を務めた興福寺一乗院は、南都における真言密教の重要な拠点の一つであった。また、西大寺や般若寺を再興した叡尊も醍醐寺に密教を学んでいた。奈良の仏教も密教抜きには語れない。

浄瑠璃寺の大日如来像や、有名な運慶作の円成寺大日如来像は、この一帯に確かに密教が存在していたことを物語る。中川寺成身院は中世において奈良と京都の仏教をつなぐ要の一つであり、その解明は中世仏教の新たな姿を浮かび上がらせることになるであろう。

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