PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

初詣における改憲署名と「天皇陛下お言葉」(2/2ページ)

千葉大大学院人文社会科学研究科教授 小林正弥氏

2017年1月1日

神道の観点からみても、最重要なものと「祈り」が一般的に認識されれば、「祈り」を行う皇室祭祀に実質的な公共性が巡幸とともに認められることになる。多くの国民が共通にこう理解すれば、現行憲法の象徴天皇制のもとにおいて法的には私的な皇室祭祀が実質的には公共的な意義を持つわけだ。神道界では、皇室祭祀が法的に「私的」なものとされていることに反対して改憲を主張しているが、このような見方が広く共有されればそのための憲法改正は不要になるだろう。

天皇陛下は、「伝統の継承者」として「いかに伝統を現代に」生かすかという問題意識を話され、喜びと悲しみの時を「人々と共に過ごして来た」ことや「国民と共にある自覚」を強調された。「祈り」などの神道の「伝統」を「現代」の現行憲法のもとで生かす道をこのメッセージは示しているのだ。それは、改憲を要する「国体」の考え方ではなく、人々と「共に過ごし」「国民と共にある」公共的な象徴天皇の姿である。天皇の「祈り」を神社界が民間の立場からの「祈り」によって補完すれば、戦前のような「国家神道」ではなく「公共的神道」ないし「国民の神道」がこのメッセージを中核にして築かれうると思われるのだ。

神社神道と天皇のメッセージ

神社本庁設立に大きな役割を果たした葦津珍彦は、祭政一致を回復するために改憲論を主張すると同時に、靖国神社の国家護持を当初は願っていた。しかし神社自らの判断でA級戦犯を合祀して民間の神社として自立する道を選ぶと、本紙『中外日報』の連載「公式参拝の問題点」(1980年5月6~15日)で国家護持論の放棄を潔く表明し、公人の公式参拝の主張に変更したと明言した。国家護持論は靖国神社の意向に基づくものだったので、神社自体が民間の宗教法人として歩むことにした以上はその主張を止めていると「告白」したのだ。

天皇陛下ご自身のメッセージは、このような方針転換を神社界に促すものではなかろうか。「大御心」という「天皇意思」に「日本民族の一般意思」を葦津は見て、生涯それを探求した。「天皇お言葉」は神道的に言えば「大御心」の公式な表明に他ならない。もし「天皇意思」が旧「国体」の回復にあるのならば、あくまでもそれを目指すのが神社神道の考え方かもしれない。ところが「天皇意思」は象徴天皇制としての「お務め」が継承されることであることが明らかになった。

葦津の論法を適用すれば、靖国問題でその主体たる神社の意思に即して考えたように、天皇制に関しては最大の主体である天皇ご自身の「意思」を神社神道は尊重すべきではなかろうか。しかもその「大御心」は「日本民族の一般意思」とすら考えうるものとされている。現に国民の大多数が生前退位を支持し、皇室典範の改正も支持しているのだ。「大御心」は生きている天皇個人の意思よりも高く、歴代天皇(皇祖皇宗)の世襲の意思だという議論も葦津はしているが、多くの歴代天皇が譲位されているから、この論理による退位反対論も成立しない。

民主主義において主権者は国民であり、政治的決定は天皇の意向に従う必要はない。けれどもこと神社神道においては天皇陛下ご自身の熟慮された意思表明は軽視できないはずだ。「大御心」に現れた「日本民族の一般意思」を尊重すれば、旧「国体」への回帰という主張に代えて、国民主権・民主主義と調和する象徴天皇の「まつりごと=お務め」の継承を願うことになるのではなかろうか。もしかすると、これは「国体」の更新であり、新しい「国家体制」の確立への道かもしれない。

《宗教とAI⑤》AI時代の人間性の発露 木村武史氏7月16日

AIに意識やこころ認めるのは錯覚か 生成AIを含むAI技術開発は社会の様々な領域に影響を及ぼしつつある。技術開発の上流で実験的に行なわれている技術開発が下流の一般社会に浸…

《宗教とAI④》予測不可能性と創造の主体 冲永宜司氏7月3日

人間による意味主体的な働き 人間にはAIに代替できない性質があるかという問いには、どんなにAIが発達しても人間の役割や尊厳は失われない、という期待が込められている。そこに…

月輪大師俊芿律師800年御遠忌 西谷功氏6月24日

泉涌寺の創建 平安時代後期の日本社会は、院政の開始や武士勢力の台頭、荘園制の進展によって、律令国家以来の秩序が大きく揺らぐ時代であった。中央政治の再編と地方支配の変容が進…

やまゆり園事件10年 いのちと共生考える契機に(7月15日付)

社説7月17日

皇室典範改正案 国民の総意はどこに(7月10日付)

社説7月15日

戦犯者の叫び 戦争の不合理を繰り返すな(7月8日付)

社説7月10日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加