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町づくりにおける寺院神社の意義 ― 歴史的価値アピールを(2/2ページ)

首都大学東京客員教授 横溝良一氏

2017年2月10日

このような中で、戦後、わが国の町づくりは寺社と行政の連携した取り組みが希薄になっている。例えば、門前町の町並みづくりは寺や神社に任せられ、行政が深く関与せずに進められてきたところも多い。また、京都市や奈良市のように、多くの寺社を抱え、観光面からも、町づくり面からも大きな影響がある都市でさえ、市の都市計画審議会の委員には宗教関係者の名前はない。多くの判例を見れば、政教分離の考え方に対して、行政はもっと柔軟になってもいいだろう。

しかし、行政が一つの地域で特定の宗教や特定の寺社を援助していないことを証明することは容易ではない。行政から寺社に対して積極的なアプローチが期待できそうにないのが現状だ。このことを踏まえると、まず取り組むべきは寺社自らが行動を起こすことである。その場合、寺社は歴史的文化的な観点から、また、地域の一地権者の立場から町づくりにアプローチすることが不可欠であろう。著名な寺社が存在する地域では、既に都市計画における歴史的保存地域に指定され、行政の様々な町づくり支援が行われている。しかし、著名な寺社が存在しない地域では、寺社に触れないように注意するだけで、その存在に配慮しないコンセプトで市街地の整備が考えられ、施設との調和が図られずに町づくりが進められた地域も多い。今後は寺社自らが働きかけ、長い間立地している宗教施設の歴史的文化的価値を行政にしっかり認識させ、表に出していくことで生活者や観光客に知ってもらう流れをつくるべきである。

そのためには、まず、個々の寺社が自ら持っている資産を再調査し洗い直すことから始める必要がある。地域には特色ある歴史や風土がどのくらい残されているのか、自らの寺社がそれとどのような関わりがあるのか、そして建物や庭、工作物、保存資料や彫像等にどのような価値があるのか、十分調査する。宗教者から見れば、当たり前の言い伝えや仏品が、一般の人から見れば大変貴重なものであったり、外国からの観光客にとっては日本らしい歴史的文化的遺産であることに気がついていない場合が多いはずだ。檀家等と一緒になって調べたり、ブランディングなどの手法も活用して外国人の考えを理解する。そして、改めて価値付けを行い、町づくりに生かせないか考えていくことが重要である。

また、寺社と生活者の距離を縮める取り組みを進めるべきである。そのために歴史文化に興味ある者が気軽に足を運べる環境を整備していく。御朱印集めやパワースポットという流行に乗ることもいいだろう。既に行政の所有となっている道路を参道等として再整備することを提案してもいい。祭礼や伝統行事、伝統芸能などの文化的行事を行うために、景観の整備や希有な風景を保存する市街地整備を提案していくこともできる。その場合、直ちに行政と一体となって考えることが難しければ、商店会や商工会議所、企業等と連携し、市民自らの施策として機運を盛り上げていくことも必要である。文化財施設の管理、歴史的遺産の保存や復元、伝統行事の復活・保全等について、市民協働の取り組みとして行うことで、行政が受け入れやすい施策となり実現性を高めていくことになる。そして最終的には、行政の都市づくり計画に施策を埋め込んでいきたい。

いずれにしても、寺社が存在する地域において、町づくりにおける寺社が担うべき役割をしっかり押さえ、人的交流を通してコミュニティーの活性化を進めるとともに、行政の進める様々な施策とパッケージ化することにより地域経済や運営に貢献していくことを基本に取り組みを進めていくことが肝要である。

最後に、ある檀家から聞いた話だが、住職が代わった寺で、お経をあげる小坊主たちの声が大きくなり、切れが良くなったとのこと。そこからは新しい住職のしつけの厳しさが想像され、誠実な人柄と宗教に対する真摯な姿勢が伝わってきて尊敬の念が増したという。人間は一つのことで本物と見せかけを見抜く力がある。歴史文化の保存や地域の活性化について真摯に取り組むことこそ寺社が求める町づくりに近づける早道かもしれない。

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