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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

ぽっくり往生の願い(2/2ページ)

佛教大非常勤講師 村田典生氏

2017年12月13日

柳谷慶子はこの時代を「いわゆる『日本型福祉社会』の政策のもとで、家族(女性)を福祉の受け皿として位置付ける高齢者の在宅支援が進行していた時代」と呼び、『恍惚の人』において「仕事を持ち、家事をこなしながら舅の介護に忙殺される嫁への関心は高くなかった。嫁として舅の老いを看るのを当然のこととする家族観が支配的で、介護という言葉自体がいまだ生まれていなかった時期でもあった」と述べている。このような時代に吉田寺はぽっくり寺としての流行を見たのである。

ぽっくり寺に大型バスで群参した人々は、基本的に「老人や病者―①」と「その家族、縁者―②」に分けることができよう。①は自身のぽっくり往生を願っての参詣である。②は彼らが介護している①へのいたわりの気持ちの発露からであろう。①の症状改善・治癒・長寿であり、それらが見込めないときのぽっくり往生を祈念するための参詣である。そして②が参詣するもう一つの理由として挙げられるのが「介護生活からの解放」というものではあるまいか。

平成26年2月13日付の読売新聞に吉田寺を取材した記事が掲載され、その中にこのような一文があった。流行する以前は「住職の母が集まってくる女性たちの相談相手を務めていた」。曰く、「舅がぼけて、便を壁に塗った」「姑が寝たきりになって長い」という相談を受けていたというのだ。

日本型福祉の限界

これは柳谷の言う「日本型福祉社会」の「嫁として舅の老いを看るのを当然のこととする家族観」に当てはまる。そしてそれは当然とされた嫁たちの孤独を際立たせている。家庭や職場では誰にも相談できないのだ。そういう風潮であったために顔を隠して参拝するような状況があったのである。しかし、吉田寺へ参詣することによって同じ境遇の女性が集まり、苦労を吐露し、それを聞いてもらえる状況が設定され、面倒を見ている①のぽっくり往生を願うこともできるのである。①だけでなく、①を世話する家庭の女性(家の嫁)の負担軽減につながる利生を持つ寺院と本尊阿弥陀如来に関心が集まったのである。

この吉田寺は高度経済成長期で世の中が好景気に沸いているなか、間もなく破たんする「日本型福祉社会」のひずみの中で「恍惚」となった「老舅」を安楽往生させるだけでなく、その「介護に忙殺される嫁」たちを救済するために示現した流行神であるともいえる。その意味で吉田寺は現代的な特質を持つといえるのである。

神仏の流行、つまり「はやり神」は現世利益をその利生とすることが多い。ぽっくり往生は①の人々にとってはそれが『できる』というまさしく人生最後の現世利益であるといえる。そして②の人々にとっては①にぽっくり往生『してもらう』こと、そして世話や介護の負担の軽減という現世利益ととらえることができる。

現在吉田寺の流行の時期は過ぎ、穏やかな時間が流れている。神仏の流行は突然参詣者の急増を見た後、今度は突然流行が終息し忘却される。しかし、中には流行を繰り返して定着するものもある。吉田寺はすっかり「ぽっくり寺」として定着している。

ぽっくり往生の祈祷を受けた人々の家族や子供たちが「おかげさまで父は苦しまずに往生しました」とお礼参りに来られることも多いという。本当のところは当人にしかわからないことである。しかし、残された者が納得して看取ったということは、それはぽっくり往生がかなったということではないだろうか。筆者の父も最後は祈祷していただいた肌着を持って往生した。延年天寿というわけではなかったが、母も納得したぽっくり往生であった。

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