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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

未来を語る寺院仏教へ ― 過疎地寺院問題≪11≫(2/2ページ)

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

2020年1月6日 16時35分

先祖祭祀という宗教儀礼には、自己を親(遡れば先祖)と子(下れば子孫)との関係で捉える関係論的自己認識がある。自分のいのちは自分だけのものではないこと、具体的な身近な人に支えられて自分があること、それゆえの自己の戒めなどを慣習として身につける行為が先祖祭祀である。心理学的にいえば、孤立感に陥らず、安定的自己を維持することに寄与する。

地域で行われる祭礼に参加することは、親族を超えた社会関係に具体的に自己を位置づけ、自分の役割を得ることである。しかも、職場や一般社会における能力評価とは別の次元で、その人自身の存在が認められ、自己効力感を確認できる場となる。

霊魂やカミの存在といった宗教論をなさずとも、世俗的な学問の水準でも、慣習的な宗教行為や意識と主観的幸福感は関係していると説明できるのである。

現代は、家族葬から直葬・無葬へ、年忌法要、祭祀や儀式も手間だから、人に気を遣わせるからと簡略化や省略の方向にある。それは社会的・心理的安定を図るためのせっかくの機会を自ら喪失することになる。慣習の中には優れたグリーフケアの知恵がある。

ひとつ気がかりなことは、私の調査によれば、檀家・氏子を含め宗教団体に所属した人と無所属の人では幸福感に違いがなかった。これは西欧やアジア諸国での知見に反し、宗教者や宗教団体が人を幸せにも不幸にもしていないという考えさせられる結果となった。詳しくは、櫻井義秀編『宗教とウェルビーイング』(北海道大学出版会、19年)を参照されたい。

第三の空間と寺

さて、寺がソーシャルキャピタルになることも、先祖祭祀が人の主観的幸福感を増すこともわかった。しかし、地域人口が減り、寺院を維持することも葬儀法要の需要もなくなったらどうするのか、という疑問の声が聞こえてきそうである。

そこで一つ提案したいのは、兼務先寺院や無住寺院をR・オルデンバーグがいう「第3の空間」として活用できないかということである(忠平美幸訳『サードプレイス』みすず書房、13年)。第1の空間は家庭、第2の空間は職場、そして、第3の空間がコミュニティ・ライフを味わえるところとされる。参加者の平等性が保障され、顔なじみと会話を楽しみ、心地よさを味わえる場所である。具体的には、カフェ、居酒屋、床屋、銭湯などで、オルデンバーグはここに「教会」を入れていないことが気がかりだが、地域の人が政治・宗教・社会的な所属や地位など気にせず入れる居場所であればよい。

無住寺院や神社を地域の人が公民館代わりに活用し、護持もしている事例はよく聞く。こうした宗教施設の開放と管理を宗教者と地域住民が協同で行えればよいのではないか。こうなれば、宗派・教派の別を言っても始まらない。超宗派が望ましい。高齢者支援や震災被災者支援においても、お茶を飲みながら何気ない会話ができる場、人と顔を合わせるために足を運べる場が重要であると指摘される。それが移動式ではなく、常設型になるわけである。

宗教者の役割は何かということだが、管理者ではなくファシリテーターである。第3の空間の空気や雰囲気を維持するためには常連さんに加えて、マスターやおかみさん、ソフトなリーダーシップを取る人が必要とされる。時々の参加でもいいのではないか。

そんなことは既にやられているという地域があれば、未来先取り型と言える。私は寺院経営の状況もいろいろと調査させてもらったが、今後、住職が専業で続けられない地域が大半になるものと予測している。その際、住職と副住職の世代間で、住職と寺庭夫人(逆に夫と女性住職)で兼業・兼職、共働きせざるをえない。そうなれば、いつ寺に行っても誰かお茶の接待をするようなことはありえず、寺に関わる信徒・檀徒・関係者で分担するしかない。

寺は現代社会のニーズに対応する限り残るだろうし、それは地域の「居場所」として機能するかどうかにかかっているのではないかというのが私の見立てである。

〈「過疎地寺院問題」の連載はこれで終了します〉

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