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空海『即身成仏義』の核心について(2/2ページ)

前東洋大学長 竹村牧男氏

2020年5月19日 15時02分

次に、第二句、「四種曼荼、各々離れず」の解説においては、たとえば「即」について、次のようなことが説かれている。

是の如くの四種曼荼羅、四種智印は、其の数無量なり。一 一の量、虚空に同なり。彼れ此れを離れず、此れ彼れを離れず。猶し空と光との無礙にして逆えざるが如し。故に四種曼荼各不離と云う。不離は即ち是れ即の義なり。

ここでも即は不離の意と言っている。今、詳しくは述べないが、字身=言語の集合(法曼荼羅)、形像身=身形の集合(大曼荼羅)、印身=意思の集合(三昧耶曼荼羅)であり、かつそれらの作用(羯磨曼荼羅)の全体が四種曼荼羅であるので、四種曼荼羅はつまり三密のすべてと見なすべきだということになる。

そこにおいて「彼れは此れを離れず、此れは彼れを離れず」とは、いかなることであろうか。四種曼荼羅すなわち三密が渾然一体となって一つの身(各個)に具わっているとして、それらすべての三密があらゆる各身の間で相互に相即・相入して不離であることが、「四種曼荼各不離」の最大の意味だと受け止めることができる。このことは、実は次の第三句の説明にも、第四句の説明にも繰り返し出てくることにもなるのである。

実際、第三句、「三密加持すれば速疾に顕わる」の解説では、たとえば次のようなことが説かれている。

一 一の尊等に刹塵の三密を具して、互相に加入し、彼れ此れ摂持せり。衆生の三密も亦た復た是の如し。故に三密加持と名づく。

諸仏諸尊においては、彼らの無量の三密が「互相に加入し、彼此摂持」しているという。このことは、まさに第二句の「四種曼荼各不離」において、各身に帰属すべき三密が相互に不離相応している姿を活写するものであろう。さらに先取りして言えば、次の第四句、「重重帝網のごとくなるを即身と名づく」の解説にも、その冒頭に「是れ則ち譬喩を挙ぐ。以て諸尊の刹塵の三密の円融無礙なることを明かす」と説かれている。とすれば、この諸仏諸尊の無量・無数(刹塵)の三密が交響するダイナミックな世界こそが、空海における内証の世界の原風景なのであろう。如来の内証の世界としての曼荼羅を、けっして平面上の静止した姿のみでとらえるべきではない。

こうして、結局、第四句に「重重帝網のごとくなるを即身と名づく」と言わざるをえないことになる。その説明においては、自と他、衆生と仏等の間で、縦横重重にして、「彼の身は即ち是れ此の身なり、此の身は即ち是れ彼の身、仏身即ち是れ衆生の身、衆生の身即ち是れ仏身なり。不同にして同なり、不異にして異なり」とある。さらには「是の如くの三法は、平等平等にして一なり。一にして無量なり、無量にして一なり。而も終に雑乱せざるが故に重重帝網名即身と曰う」と示されるのである。ここの三法は、「心・仏・衆生」が分かりやすいであろう。

ともあれ、こうしてみると空海は、「即身成仏」の「即身」とは、自己(の存在と作用)があらゆる他者(の存在と作用)と相互に渉入するあり方にある身であることを意味している、と一貫して強調したことになる。こうして、『即身成仏義』が明かす「即身成仏」の意味は、あらゆる他者と重々無尽の関係を織り成す即身として、すでに成仏しており、かつ密教の教えにしたがえば、現世のうちにそのあり方をまどかに自覚・実現して速疾に成仏しうることと言うべきなのである。この「即身成仏」の理解は、「即身成仏」の語の表面的な了解にとどまらない、それに隠された意味を深く究明した、空海の実に独創的な解釈なのである。詳しくは拙著『空海の哲学』(講談社現代新書)を参照されたい。

なお、「六大無礙」とは、六大=法界体性により成る各身が、無障無礙にして互相に渉入し相応せることなのであった。この各身は、物質的・心理的諸元素である六大から成立しているとも言える。ここにおいて興味深いことに、各身が無礙である地平に立てば、やはり諸元素でもある六大が無礙にして常に相即相応していると見ることもできよう。ここにおいてもう一度、諸元素の無礙なる事態がよみがえることになる。とすれば、この「六大無礙常瑜伽」の句は、実に重層的で奥深い意味を持つ句であったというべきである。

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