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10年という区切り―震災10年(2/2ページ)

作家・臨済宗妙心寺派福聚寺住職 玄侑宗久氏

2021年3月22日 15時38分

原発を巡っては、国として大きなエネルギー転換がなされていくことを期待していたわけだが、安倍長期政権は遂に大きな変化をもたらさなかった。福島県議会は第1・第2原発双方について、廃炉にするよう何度も決議したが、最終的に東電が第2原発の廃炉を決定したのは2019年の7月である。

営利企業である以上、「不都合な真実」を隠す性癖もなかなか改まらず、また最近は格納庫上部に危険な高線量部分が見つかったり、散乱したゼオライトに打つ手がないなど、予期せぬトラブルも相次いでいる。廃炉行程は約40年と見積もっていたわけだが、遅延するのは間違いないだろう。

菅政権の突然の「脱炭素宣言」も原発再稼働を後押ししている。再生可能エネルギーが未発達な現状では、原発に頼らざるを得ないということだろうが、自然災害が目に見えて増加している状況では不安である。原発にしてもリニアにしても、これだけの地震国に相応しい技術だとは思えない。

ただ国は、2030年までに福島県内に、電力の全てを再生可能エネルギーで賄う工業団地を整備する予定だという。燃料電池車への移行、そして水素発電の実験研究をするようだが、中継ぎとしてのアンモニアを使った火力発電も期待され、代替技術の登場に伴って原発については考えるということかもしれない。

震災後、はっきり見えてきたのがこうした「GDP至上主義」である。国家予算も国債の発行額も鰻登りに上昇し、子孫への負担は無制限に増えつつある。廃炉や「中間貯蔵施設」のその後のことなど考えると、いったいこの国は未来への責任をどう考えているのかと訝る。倫理や文明論よりも、とにかく目先の経済ばかりを気にする傾向が震災後も長く維持されてきた。新型コロナウイルスへの対処でも、「Go To」政策がいったい我々をどこへ連れ去ろうとするのか恐ろしい。

風評被害を含め、被災地の人々は悲喜交々を濃密に体験してきた。自殺者も増え、イノベーションも起こった。大きな災害があれば、新旧勢力交代などさまざまなことが起こるのは「なまず絵」の時代から変わらない。しかし今回の震災がこれまでと違うのは、放射能という相手との関わり方だろう。端的に申し上げれば政治と科学の関係である。

たとえば食品中の放射性物質の基準は、飲料水の場合、欧米では1キログラムあたり1000とか1200ベクレル未満と決められている。しかし日本の厚労省は、なんと10ベクレル未満と決めたのである。当時の厚労大臣は「低いほど安心していただける」と述べたが、科学的「安全」と心理的「安心」とを混ぜ込んでしまった。これは「きれい好き」では済まない科学への冒涜である。そしてその結果、風評被害は増長し、被災地の人々の首が絞められた。誰でも簡単に想像できるはずである。

今後の問題点を挙げれば、何よりトリチウム入り処理水の処分法についての議論だろう。当初は昨年末までに結論を出すとしていた政府だが、薄めて海洋放出するという提案は漁民の反対に遭い、暗礁に乗り上げた。私はいま処分法が問題なのではなく、それについての議論が問題だと書いたが、これこそ日本の民主主義の成熟度が問われるテーマではないだろうか。立場が違えば当然考え方も違う。知識を十分共有したうえでどこまでお互いが歩み寄れるのか。日本学術会議におけるような強権的な決定は絶対に許されないはずだ。

初めのほうにも書いたように、定義もなかったためいつ終わるとも知れない「復興」だが、雲門禅師も「十五日已前は汝に問わず、十五日已後、一句を道い将ち来たれ」と問いかけた。今年の3月11日を大きな区切りとして、以後は「日々是好日」で過ごしたいものだ。

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