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10年という区切り―震災10年(1/2ページ)

作家・臨済宗妙心寺派福聚寺住職 玄侑宗久氏

2021年3月22日 15時38分
げんゆう・そうきゅう氏=1956年、福島県生まれ。作家、臨済宗妙心寺派福聚寺(福島県三春町)住職。花園大仏教学科および新潟薬科大応用生命科学部客員教授。慶応義塾大中国文学科卒業後、京都天龍寺僧堂に入門。『中陰の花』で芥川賞、『光の山』で芸術選奨文科大臣賞。震災後は「たまきはる福島基金」理事長。

東日本大震災から10年がたった。ここでは復興の現状とこの10年の変化を訊かれているのだろうが、これに答えるのは非常に難しい。

まず10年という期間は、震災と関係なく人をあまりに大きく変化させる。以前は歩けた人も歩けなくなり、這い這いをしていた子供がサッカーで駆けまわり、親に反抗していた少女が2児の母になっていたりする。成長、あるいは老化による心境の変化は甚大で、風景だけを単純に比較するわけにはいかないのである。

加えて「復興」の定義がなされていないため、とても「何割済んだ」などとは言えない。なにより阪神・淡路大震災と違い、復興構想会議が1年弱で解散になってしまい、被災地全体についてのビジョンが描けなくなった。それゆえ復興政策は被災各市町村に委ねられ、年を追うごとにその違いは際だちつつある。

一つ具体例を示しておこう。富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の福島県各町村にあった帰還困難区域の一部は、「特定復興再生拠点区域」と定められて近々人が住めるようにと除染が進められ、それ以外の土地は行政用語で「白地」と呼ばれている。「白地」とはつまり、費用と時間の関係で当分放置するしかないと諦められている土地だ。その「白地」について、政府は昨年の12月25日、人が居住しない公園や工業用地としては未除染であっても使用できると決めたのである。

むろん年間の積算放射線量は20㍉シーベルト以下、地元との十分な協議を条件にはしている。しかし一般に除染の基準は追加被曝量が年間1㍉シーベルト以下を目指しているのだから、驚いた自治体が多かった。はっきり申し上げれば飯舘村がそれを希望し、他の多くの自治体は抗議の声を上げた。当然、飯舘村民の間にも分断はあるだろう。震災直後からさまざまな分断を経験してきた被災地だが、政府が何かを決めるたびに分断が起こるというのが実情である。

根本的な問題の一つは、行政機関が使っている地図にあった。一朝事あれば、我々は「字」単位で救援物資を集めたり、炊き出しに出たりした。地域区分も「字」を最小単位にすべきだろう。しかし政府や行政が使っている2万5千分の1の地図では、「字」の区分が表記されていないのである。

分断について書いたついでに分散についても触れておこう。原発事故直後はそれこそ安全な地を求め、蜘蛛の子を散らすように避難したわけだが、その避難先は外国も含め、日本各地に及んだ(現状47都道府県、932市区町村)。私が講演先で面会を求められた体験だけでも、兵庫県丹波市や岩手県、徳島県、福岡県などがある。そして旅行で出かけた八丈島にも20人あまりの避難者がいた。夫婦で八丈島に避難した2人は、夫が郵便局に勤め、奥さんは黄八丈などの売り場で働いていた。選挙の投票用紙などは被災自治体から郵送しなくてはならず、富岡町の役場職員に訊いたところ、「避難先は徳島県以外の全都道府県です」との答え。仰天した。じつは今、避難者の新型コロナのワクチン接種を巡って選挙以上の問題に直面している。飯舘村の前村長菅野典雄氏の発案で、避難者は避難先に住みながら元の市町村民でありつづけることが可能になった。しかし、ワクチン接種について避難先で個別申請する繁雑さは避けつつ、接種状況をどうやって所属行政が把握できるか、政府は智恵を絞っている最中のようだ。

ちなみに、今年1月31日現在の県内避難者は7220人、1月13日時点での県外避難者は2万8959人である。一時は16万人以上が避難していたことを思えば、現状をどう見るかはそれぞれだろうが、今なお応急仮設住宅に残る人々がいることは忘れないでいただきたい。去年の1月末には福島県で113人がまだプレハブの仮設住宅に住んでいたが、今年の数字はまだ把握していない。

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