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彼女たちはなぜ死ぬべきなのか(1/2ページ)

天理大学附属おやさと研究所教授 堀内みどり氏

2021年6月3日 09時56分
ほりうち・みどり氏=1956年生まれ。岐阜県出身。バナーラス・ヒンドゥー大大学院博士課程修了。哲学博士(インド哲学・宗教学)。専門は、宗教学、現代ヒンドゥー教、女性と宗教。現在、天理大学附属おやさと研究所教授。著書に『インド結婚事情』『人と思想 ラーマクリシュナ』など。

「伝統的に、花嫁の家族は花婿やその両親に、時には過度に金銭や物を贈り、女性が新しい家庭で大事に扱われるようにしてきた。持参金の授受はインドでは違法だが、同じペースで行われ続けている。毎年何千件も、花婿の家族は結婚後にさらに持参金を要求しており、さらに過酷な強奪や嫌がらせが高まり、花嫁の自殺や殺人につながっている。持参金殺人は、多くはキッチンの事故に見えるように作られた火災によるものだ」(ジョニー・シーガー『女性の世界地図 女たちの経験・現在地・これから』明石書店、2020年)

1984年9月、インドの留学先の大学構内に入り、最初に目にしたのは女子学生たちのデモ行進。「学内で起こった教員とその家族によるダウリー(結婚持参財)殺人に抗議する」と抗議文を読み上げた女子学生の声は震えているようでした。

インドには、かつてストリーダナという慣習がありました。子供たちに分け与えることができる財産を持った父が、結婚する娘に贈った財産です。これは、将来、娘が夫を亡くしたり、息子に恵まれなかったりして、ひとりで生活をしなければならなくなった時のために用意されました。ストリーダナは娘(花嫁)の財産であったため、夫やその家族によって使用されることはなく、離縁となった場合、彼女はストリーダナを持って婚家を去ることができました。今日問題となっているダウリーも花嫁が持参しますが、その意味は大きく異なっています。シーガーが述べているように、ダウリーは、その多寡やその要求に応えられない時、花嫁に悲惨な状況をもたらします。留学先の大学で起こったダウリー殺人では、夫側が要求したダウリーに妻側が応えられなかったので、「調理中の火がサリーに燃え移って焼死」したように見せかけられたと、学生たちは訴えていました。

謝秀麗は『花嫁を焼かないで―インドの花嫁持参金殺人が問いかけるもの』(明石書店、90年)の中で、インドの女性たちは、子供の頃から教えられた自己犠牲と献身によって、抵抗することや反抗することを学ばないまま大人になり、「ダウリーで(両親を)苦しめるよりは死んだ方が良い」「自分さえ我慢すればみんなが幸せになれる」等と考えて、忍従の日々を過ごしてきたと指摘していました。あたかも男性と女性との格差を金品で埋めるかのように、ダウリーが婚姻の場面で大きな意味を持っています。

・(インドの)女性子ども開発省は、2012年と14年の間におよそ22000人の女性が持参金をめぐる嫌がらせによって自殺したり殺されたりしたと見積もっている。
 ・15年には7634人の女性が持参金をめぐる嫌がらせによって死亡したと見積もられている。
 ・16年には1日に21件の持参金による死亡が報告されている。報告されないものがより多くある。
 ・持参金にまつわる死亡の有罪率は35%未満だ。(シーガー、同書)

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