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第21回涙骨賞募集

四国の文化を世界に発信する「四国遍路」(2/2ページ)

愛媛大教授 胡光氏

2021年6月22日 09時48分

さらに、在地の神々の信仰に加え、熊野や白山、観音信仰も伝わってきたが、弘法大師信仰は、「大師一尊化」によって、あらゆる宗教宗派を包含し、統合する「四国遍路」という巡礼を完成させた。弘法大師信仰がさらに高まると、江戸時代までに、神道を含む多様な宗教宗派の八十八の札所が固定されるとともに、後に全ての札所に大師堂が建立され巡拝されるという特殊な巡礼形態を持つようになった。このことは、特定の修行僧が行う「修行」から一般庶民が巡る「巡礼」へ移行することも意味する。庶民への「四国遍路」定着を担ったのは、案内本を著し、遍路道を整備した真念に代表される庶民であった。1687年、初めての案内本である真念『四国辺路道指南』が出版される。版を重ね、書名が「辺路」から「徧礼」「遍路」にかわっていくように、修行の辺路から巡礼の遍路への転換期となった。

遍路日記に見る接待と道後温泉

九州で発見した江戸時代・1845年の「四国日記」(福岡県立図書館保管/佐治洋一氏蔵)によると、筑前津屋崎(同県福津市)を出立した佐治家一行は、三津浜(松山市)に上陸後、四国遍路で毎日のように接待に出会う。接待者名・内容を詳しく記録していることから、接待が四国遍路の特徴であることを当時の人も認識していた。接待の内容は様々で、食料が最も多いが、月代髪結い、草鞋など、遍路に必要なものが全て含まれている。内容を集計してみると、最も多いのは、香物と赤飯である。続いて、月代、銭、唐豆類、煮しめ、餅、草鞋があり、さらに白飯・焼米・ひきわり飯・弁当・はったい粉・唐黍・薬・茶・豆腐・吸物が記される。身の丈に合った、できる範囲での接待を行っていることが分かる。

一行が再び松山に戻る、結願の最終日は、三坂峠を下って、最後の札所51番石手寺にて「此所打仕廻につき一切ぬき納メ又受」ことになる。そして、道後の湯につかり、「其夕御札仕廻の心祝いとて酒なと買祝ひ申也」とくつろぎ、泊まる。

讃岐国吉津村(香川県三豊市)庄屋新延家の1833年「四国順禮道中記録」(香川県立ミュージアム蔵)によると、遍路の途中で道後横町船屋に滞留し、湯八幡宮や諸所見物し、土産を買い、温泉に入る。当時の道後温泉は、壱之湯:武家の湯、弐之湯:婦人湯、三之湯:男湯、養生湯:男女混浴、馬之湯:牛馬湯の別があり、気さくな松山藩士によって、壱之湯を案内され、感嘆した様子が記されている。湯の区別があっても、全ての身分の人が温泉を利用しており、遍路も立ち寄っていたことが分かる。さらに、本書の土産記事では、最も多いのが「大師御影」「線香」、次が「道後艾」なのである。温泉と灸で遍路の疲れを癒やし、その艾を土産に遍路を続けた。

道後石手寺に伝わる四国遍路の発生譚には、大師のもとでの「死と再生の物語」が説かれる。巡礼者は大師の修行の道を辿ることで、大師に「救い」を求め、四国の人々は、彼らに「お接待」することで大師に救われると信じた。「お接待」によって、庶民の巡礼が可能となり、何度も「回遊」することが可能となる。記録や伝承には、不治の病や怪我が遍路の途中で治った話が伝わり、奉納物には大師への感謝が綴られる。富めぬ者や健康でない者も包み込む四国は、救済の場所であった。

四国の文化―四国の求心力

阿波・土佐・伊予・讃岐の四カ国は、仏教における「発心」「修行」「菩提」「涅槃」の道場に例えられるように、空海が伝えた曼荼羅の世界と各国の特徴も表している。後に、一人であっても弘法大師とともにある「同行二人」の精神も誕生し、幾多の困難を乗り越え、結願後には大いなる達成感を得る。その背景には、四国の自然や文化が深く関わっていて、古き良き日本の伝統的景観が生き続けている。

四国遍路は、巡礼の形態が最も発展し庶民化した我が国の典型的巡礼であり、巡礼の完成形と位置付けられる。この独創性ゆえに、巡礼の中で唯一「遍路」と呼ばれ「お四国」と尊称される。聖なる島、四国の自然が生み出した弘法大師信仰に基づく四国遍路は、多様な宗教・思想を受容し発展させるという日本固有の文化を体現し、往古の修行や巡礼形態を今に伝え、人々を救済し癒やし続けている巡礼であり、それを支えているのが「お接待」に代表される生きた四国の文化である。ここに、人々を四国へ誘う求心力と「顕著な普遍的価値」がある。

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