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翠雲堂

《新年座談会③》コロナ後、社会・宗教どう変わる?― 死者の権利、取り戻せ(1/2ページ)

 安藤礼二氏

 中島岳志氏

 釈徹宗氏

2022年1月11日 09時11分

 危機状況になると安易な二項対立を立てて分かりやすい理屈に飛び付いてしまうことがしばしば起こります。『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ(1976~)はコロナが収まった後、「健康かプライバシーか」のような変な二項対立が立てられ、すごい監視社会になるのではないかと言います。

健康が大事であればある程度プライバシーは犠牲にせねばならない。情報を全部中央に預けて、誰が感染しているかすぐに連絡がいってしまう――。これは問いの立て方自体明らかに間違っているのに何となく分かりやすい理屈なので、下手をすると飛び付いてしまうぞと。そういう危惧もありますね。

コロナで亡くなった方や苦労されている方が多い中、大きな気付きを与えられたような気もします。最近、文楽の方とお話しして「大変でしたでしょう。公演は中止、延期ばかりで」と言うと、皆、口をそろえて「普段は次の公演を追い掛けるので精いっぱいだが、公演が延期になると普段やらない基礎的なおさらいができる。この年になって初めて“文楽ってこういうことか”と分かりかけている。コロナのおかげだ」と言われました。あの人たちは50年、60年やってもまだ中堅どころのような世界にいて、生きている時間が長い。物事をすごく長い時間の中で捉える。芸能、武道など道を歩んでいる人はそういう感覚なのかなと思います。

安藤さんの「死者も含めた関係性」のお話について、中島さんはいかがでしょうか。

中島 コロナ下でアガンベン(1942~)の発言が世界的に注目されました。「ゾーエとビオス」という有名な議論です。ゾーエは動物的な生ですね。「生きている」ということ。人間はゾーエの部分だけでなく「ビオス」という社交する生き方、社会的政治的な生がもう一方にあると言います。コロナで皆ゾーエの安全性だけを言って、ビオス、つまり人との関係性、社交が次々に失われているがこれでいいのかと。さらに深いところで彼は「死者のビオス」が失われていると言うのです。

コロナで亡くなった人たちは葬儀もされない、死にはプロセスがあるのに家族が立ち会うことも許されず突然お骨になって帰ってくる、そういうことが頻発したわけですね。そうなると生者と死者の関係が難しくなる。それで「死者の権利を取り戻せ」とアガンベンは言うのです。私たちは死者を含む共同性の中に生きていることにもう一回、目を向けなければならない。そう思わされたことは非常に重要だと思います。私はこの問題を「死者の立憲主義」としてずっと論じてきました。政治学者としては民主主義と立憲主義が理論上どうしてもぶつかる問題、永遠に解けない問題があるのです。

民主主義は生きている人間の過半数で様々なことが決定する仕組みですから、投票に行けるのは生きている人間だけです。しかし立憲主義とは生きている人間の半分が「イエス」と言っても駄目なことがある、それが憲法だということです。いくら「表現の自由を抑制してもいい」と生きている人間の半分が言ったところで、憲法はそれを禁じている。立憲主義と民主主義の究極のぶつかり合いが何によって克服されるのかは憲法学でもさんざん議論されてきました。

私は主語の違いだとしています。民主主義は制度上生きている人間の投票で決まる。しかし憲法の主語は死者です。亡くなった人たちが様々な経験をし、死者たちが未来に対して「こういうことをやってはいけませんよ」とメッセージを投げ掛けているのが憲法だと思うのです。「未来の人間に信託された」と憲法97条に書かれていますが、とすると死者が私たち社会の非常に重要なストッパーになっている。死者と一緒に生きていかないと私たちの民主制はおかしくなる。これが「立憲民主主義」で、死者に後ろからぎゅっとつかまれている民主主義が重要です。その上で、政治学者として仏事が重要だと訴えてきました。

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