天をいただく
険悪な間柄を指して、犬猿の仲とか不倶戴天の敵などと言う。不倶戴天とは、同じ空の下には相手を生かしておけないという意味。よほどの憎しみがなければ、これほどの関係にはなりがたい◆不倶戴天としか形容しようのないところが、イスラエルとパレスチナの関係にはある。歴史上、幾度となく衝突を繰り返す中で、互いの不信と嫌悪が増幅されてきた感は否めない。衝突を繰り返すたび、和平への道のりは一歩また一歩、後退した◆「俺たちが望むのは国家の樹立だ。祖国こそ全てだ」。1972年のミュンヘン五輪事件を描いたスティーブン・スピルバーグ監督の映画「ミュンヘン」(2005年公開)で、パレスチナ武装勢力の青年は語る。ユダヤ人はイスラエルという国を手にしたが、自分たちには帰るべき祖国がない。だから戦い続けるのだ、と◆パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスとイスラエルの衝突は、10月7日の発生から2カ月になろうとしている。憎悪と報復、流血の連鎖を断ち切ることはできるのだろうか。予断を許さない状況が続く◆イスラエルを含むパレスチナの地は古来、オリーブの生育地として知られる。イスラエル国章にもあしらわれるオリーブの花言葉が「平和」であるのは、現下の状況を思えば皮肉としか言いようがない。かの地の人々が共に天をいただく平和の訪れを、願うばかりだ。(三輪万明)