地元の人々と決断 前へ コインチェンジ発案
大阪府交野市・住吉神社 谷垣文人宮司
金融機関で硬貨取扱手数料が導入されたのを受け、大阪府交野市私部の住吉神社は昨年、参拝者からさい銭として寄せられた硬貨を紙幣などと無料で両替するコインチェンジを始めた。発案した谷垣文人宮司(46)はこれまでに20社以上のメディア取材を受け「これほど話題になるとは」と驚きの表情を見せる。
さい銭の大半は初詣で寄せられるため、昨年は2月13、20日、今年は1月29日と2月5日に社務所で両替を受け付けた。今年も昨年同様、両日で50人近い人が両替に訪れ、用意された硬貨も全て出尽くしたという。
家族総出で列に並ぶ人、神戸から訪れた女性経営者、「あるだけ欲しい」と頼み込む人など訪れる人は様々。利用者の半分以上はこれまで一度も同神社を訪れたことがなく、新たなご縁づくりの場にもなっている。
きっかけは一昨年に取引先の金融機関からそれまで無料だった硬貨預け入れに手数料が必要になると告げられたことだった。数百万円の硬貨を預け入れるのに数万円の手数料がかかるようになった。
その時、頭に浮かんだのがコインチェンジだった。硬貨を必要とする小売店も手数料に悩んでいるのではないか――。役員会で話すと皆が賛同し背中を押してもらえた。
ただ、周囲に大口の商店が少なく、個人も含めて幅広く両替を受け付けることにしたが、準備が大変だった。受付で大勢の両替に対応するには、同種の硬貨をあらかじめ50枚ずつ束状に包装しておく必要がある。手作業の装填は途方もない時間がかかるため、硬貨包装機も購入した。投入した硬貨が瞬く間に透明フィルムに束ねられる仕組みだが、外貨などが混じっていると詰まって作業が止まる。初詣で集まった大量の硬貨を装入するのに半日以上もかかった。
地域の人も作業を手伝ってくれた。「地域の協力があってこそできる取り組みなんです」と谷垣宮司。「準備の大変さを経験すると金融機関の手数料にもうなずけます」
正直、手数料を払ってでも硬貨を銀行に預け入れるメリットの方が大きいとも感じる。ただ、「喜ばれるのであれば続けたい」とも。伝統が重んじられる世界で、新たな取り組みを始める不安はなかったのかと尋ねると「総代会や役員会を毎月開き、地域の人と密に話せる場があったことが大きかった。責任を一人で全部持つのは重たいけどみんなで決めたことだから前に踏み出せた」。
(岩本浩太郎)