PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
2024宗教文化講座

いのちの電話⑥ 一人ではできなくても希望を

キッチンのスタッフは手分けして弁当作りに励む(画像を一部修整しています) キッチンのスタッフは手分けして弁当作りに励む(画像を一部修整しています)

毎日昼前が「まちなかキッチン」の仕事のヤマ場だ。奥の厨房では黒ポロシャツにヘアキャップ、エプロン姿のスタッフたちが天ぷらを揚げ、魚を焼くなど手早く調理しては野菜を添えて容器に詰める作業に忙しい。この日のメニューはメンチカツや南蛮漬け。「そっちのフライ、急いで」「今日はご飯上出来やね」と声を掛け合う。表のカウンターでは3人が届いた注文伝票を整理し、かかってくる新たな注文の電話に「はい、毎度ありがとうございます!」と明るく応対する。

5人が共同生活から“卒業”し、アパート暮らしで完全自立。それを含めてスタッフ十数人全員が元自死念慮者だが、思いはそれぞれに異なる。なぜ死のうとしたかや、その時の気持ちを尋ねると「人間関係で」「生きることに意味を感じなくなった」「経済的理由」から「恐怖と虚無感」「絶望的な無常感」との答えが返った。悩んだ際に「友人はいても相談できなかった」「誰にも理解されなかった」「ありきたりな答えしかなかった」との苦悩も吐き出される。孤立して「ずっととても寂しくて」白浜へ死の旅に赴き、三段壁から電話して「初めて『助けてください』と言えました」と話す人もいた。

共同生活を通じて死を思いとどまったことについては「生活が変わって良かった」「この場があるからもう少し辛抱できるかなと思う」「精神的、体力的にまだまだやっていけると思えた」と言う人がいる半面、ある男性は「死ねなかったから生にしがみ付いているのかも。前は死ぬ理由を探していただけなのかもしれない」と複雑な心境を打ち明けた。世話をする藤藪庸一牧師へは、一人の女性が「明るく精力的に人に尽くしている姿を見ていると、何とかなりそうに思える」との思いを話した。

親子関係が理由で自死を志した80代女性は「どう考えても行き詰まりで先がなかった。びくびくと怖い思いをしながら生きるのはやめて楽になりたい、全てを終わりにしたいという気持ちでした」と苦悩を振り返る。キッチンで働いていて「皆がそれぞれに悩みを抱え、耐えながら懸命に生きているのを見て私も頑張ろうと思います。皆さん思いやりがあって優しい」と言いながら「これからどうすればいいのか不安はいっぱいです」とも正直に口にした。

別の40代男性は「自分は変わっていない。命がとても大事だとはずっと思わない気がする、自信を持てない限り」と言いながらも「行事で子供らと接するようになり、死のうと考えることはなくなった」。一方で50代女性は「今日、することがあるので、今日生きていられる」と話し、ある男性は「何も変わらない日常でも、ぶざまでも生きることです」とうなずく。

藤藪牧師は「うちへ来た人は皆、頑張った人たちです。頑張って頑張って頑張って、疲れ果てて死を考えた。でも自分と向き合って変えないと壁は打ち破れない」と語る。共同生活から一度自立したもののうまくいかず、貯金を使い果たして破綻した男性がいた。連帯保証人になっていた藤藪牧師が事情を聞くと、生活がいいかげんで健康保険にも入らず家賃も払えなくなっていた。「そんなことでどうする! 早く私たちに相談すべきだろう」ときつく叱る。

涙を浮かべる男性は、牧師と将来を見据えた生活設計を一から話し合う中で再起を誓った。「一人ではできなくても希望を示す、そういう隣人に私はなりたいのです」

(北村敏泰)

紫住職は寺にいても門徒から「先生」と呼ばれる

遊んで、先生④ 誰もが気安く集まれる場所に

9月18日

「ともだち診療所」の紫英人院長は、診療所が隣接する真宗大谷派円立寺の次男に生まれた。寺は長男である兄が継ぐ予定だったので「自分は坊さんになる義務さえなかった」。しかしそれ…

ともだち診療所には箱庭のいろんな材料が並ぶ

遊んで、先生③ 「全員が同じ道」考え直すべき

9月12日

「ともだち診療所」には様々なおもちゃが置いてあり、箱庭療法の材料の木や車、人形なども並んでいる。ところが一人の中学2年の女子生徒は別の行動を見せた。その生徒はある日、急に…

楽しいペンションを思わせるともだち診療所の建物

遊んで、先生② 気持ちを「好き」に向けること

9月11日

不登校の子どもと「まず遊ぶ」ために「ともだち診療所」の紫英人院長はその子と何が好きかを話題にする。ある時、高校2年の男子生徒が父親に連れられて診療所に来た。「眠れず、朝起…

病院の閉院・譲渡 宗教系病院の在り方とは(4月19日付)

社説4月24日

アカデミー賞2作品 核問題への深い洞察必要(4月17日付)

社説4月19日

人生の学び 大事なのは体験で得た知恵(4月12日付)

社説4月17日
このエントリーをはてなブックマークに追加