70年ぶりの英王室戴冠式 宗教的多様性が印象的
大阪大教授 稲場圭信氏
英国王チャールズ3世の戴冠式が5月6日、ウェストミンスター寺院で執行された。チャールズ国王はカンタベリー大主教から聖油を塗られ、360年以上前に作られた歴史ある聖エドワード王冠を授けられた。70年ぶりの式典だ。エリザベス女王の戴冠式では昭和天皇の名代として皇太子が参列したが、今回は秋篠宮夫妻が参列した。
今の時代、UKの非常に厳しい経済状況も考慮したのか、エリザベス女王の戴冠式と比べ随分と簡素化されたという。一方でチャールズ国王はこの式典で多様性を重視した。その様子を各メディアが取り上げた。
式ではUKを構成するイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドや元植民地から成る英連邦といった多様性を尊重した。聖歌「来たり給え、創造主なる聖霊よ」は英語、ウェールズ語、スコットランドとアイルランドのゲール語で歌われた。キリスト教の聖歌隊には男性に女性も加わった。女性聖職者が新約聖書の一部を読み上げた。敬虔なヒンズー教徒であるスナク首相による聖書朗読もあった。
キリスト教以外の諸宗教の聖職者が王の権威を象徴する宝飾品を運んだ。英国国教会、プロテスタントに加えてカトリック、ギリシャ正教会、フリーチャーチなどの長が祭壇に上がり、国王の前で祈りを捧げた。
このようなことは70年前のエリザベス女王の戴冠式ではあり得なかった。チャールズ国王は以前からキリスト教以外の宗教関係者との対話に積極的だった。その姿勢が戴冠式に現れていた。女性や英国国教会以外の様々な宗教の代表が式進行に携わったことを、チャールズ国王の多様性を尊重し、時代に合わせて国民に寄り添っていく在り方として好意的に受けとめる国民も多い。戴冠式でウィリアム皇太子が父であるチャールズ国王に忠誠を誓った。しかし当日は君主制反対派の抗議集会もあった。ロンドン中心部トラファルガー広場で、「NOT MY KING」と書かれたプラカードを掲げて抗議する様子を英メディアが報道した。
チャールズ国王は「あらゆる信仰の擁護者でありたい」と望む。エリザベス2世の女王就任当時はキリスト教徒が圧倒的多数で、1950年代と60年代は86%から91%がキリスト教徒を自認していた時代だが(The Guardian, 5月4日付)、2021年の国勢調査では46・2%がキリスト教徒と回答、11年の調査から10年で13・1%下がった。無宗教は逆に12%増えて、37・2%にのぼる。ムスリムは約6%、ヒンズー教徒は2%、仏教、シーク教、ユダヤ教は合わせて2%程度である。
英国民は宗教状況をどのように見ているのか。半数以上が信教の自由が脅かされていると感じている一方で、84%が信仰や宗教は社会にとって良いものだと思っている(Bloom review call for evidence, 2020)。確かに戴冠式は宗教的に多様性に富んだ式であった。長期にわたり絶大な人気を誇ったエリザベス女王の後で、環境問題にも熱心に取り組んできたチャールズ国王が多様な信念の擁護者となりえるのか。チャールズ国王の立ち居振る舞いに関心が寄せられている。