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「宗教」としての「日蓮主義」― 社会の指導原理めざす(1/2ページ)

大阪大日本語日本文化教育センター非常勤講師 ブレニナ・ユリア氏

2014年2月13日
ぶれにな・ゆりあ氏=1985年、ロシア、レニンスク・クズネツキー市生まれ。ノヴォシビルスク国立大人文学部東洋学科卒業。大阪大大学院言語文化研究科博士前期課程修了。同研究科博士後期課程修了、博士(日本語・日本文化)。専門は近代日本仏教思想史。現在、大阪大日本語日本文化教育センター非常勤講師。

「日蓮主義」といえば、近代日本の日蓮仏教者、田中智学(1861~1939)、本多日生(1867~1931)によって日蓮の法華経至上主義が国家主義に結びつけられたものというイメージが浮かび上がってくるのではないだろうか。実際、これまでの先行研究においても、国体論を中心とした「日蓮主義」の政治的イデオロギーに関心が集中する傾向にあったが、そこで看過されてきたのは、その宗教思想的側面である。

仏教は、1868年の神仏分離令等によって引き起こされた廃仏毀釈の矢面に立ち、また1873年にはキリシタン禁制が事実上解かれ、カトリックを初めとするキリスト教の伝道が活発化する中で、存亡の危機に陥っていた。そういった中、religionの訳語として「宗教」という言葉が普及してくるが、統一意識がなかった近世仏教においては「宗門の教え」という意味でしかなかった「宗教」は、この訳語化を契機として諸宗教を包括する、即ち仏教やキリスト教などを含む上位概念として用いられるようになる。

また、近代以前の日本においてはインドで出現した釈迦を起源とする「宗教」としてのBuddhismにあたる日本語も定まっていなかったが、キリスト教にも対抗するために、仏教界においても自己のアイデンティティとして普遍性を有する「仏教」という統合的な概念が自覚されるようになる。

つまり、廃仏毀釈やキリスト教の普及という現実に直面した仏教界では、その生き残りのために、迷妄で超世間的であると批判を受けた仏教を、より社会的で理性を満足させ、また倫理的にも感化を与えうる宗教として生まれ変わらせる、即ち近代化させる必要が出てきたのである。

この流れの中で現れたのが田中智学と本多日生であり、日蓮仏教を根幹に、それを宗教思想的に再解釈し、一般社会に弘めていこうとした。これが、両者が提唱した「日蓮主義」の本質だといえるであろう。

とはいえ、ユニテリアニズムの伝播、新仏教運動、大乗非仏説論争、神秘主義の広がりなど、近代日本の宗教界の様々な動きの中で「宗教」としての「日蓮主義」を構想した両者の思想はその詳細を見れば、決して軌を一にするものではなかった。

当時、教権・教条に束縛されず、自由に宗教の真理を探求することを目指した「自由討究」といわれる宗教伝統に対するアプローチ法が流行するが、本多日生はこうした理性的、合理的な宗教観を肯定的に捉え、日蓮仏教に宗教学の方法論を積極的に取り入れようとする。

日生は、当時の著名な宗教学者、オランダのティーレの進化論的な宗教類型論を参考に、本尊を中心としたタイポロジーを作り上げ、「統一神教」の理想を説き、それが「日蓮の主義」である法華経と釈尊への信仰を核とした宗教であるとし、日蓮仏教の優位性を主張する。

一方、田中智学は、ユニテリアニズムや新仏教運動にみられるような理性主義や道徳主義においては近代的宗教であろうとするあまり、宗教でさえもなくなる危険性をはらんでいるとして、「日蓮主義」における教権性、絶対性を強調する。智学は、懐疑を前提とした自由討究をもととする仏教への言及を批判し、その懐疑を克服するために、ある種の神秘主義、霊性主義、あるいは、スピリチュアリズム的な考え方を「日蓮主義」の中に取り入れるのである。

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