PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座

現代日本社会と宗教教育 ― 人間存在の可能性への理解を(1/2ページ)

宗教文化教育推進センター長、北海道大名誉教授 土屋博氏

2014年6月20日
つちや・ひろし氏=1938年、東京都生まれ。北海道大文学部卒、同大大学院文学研究科博士課程単位取得。北海道大教授、北海学園大教授を経て、現在、北海道大名誉教授、宗教文化教育推進センター長。主な著書に『教典になった宗教』『牧会書簡』『聖書のなかのマリア―伝承の根底と現代』など。

日本宗教学会および「宗教と社会」学会を母体として3年前に創設された宗教文化教育推進センターは、さしあたり「宗教文化士」認定制度の設置を主要な事業としてきた。これはその後順調な歩みを続け、現在までに5回の認定試験を行い、144人の宗教文化士を世に送り出してきた。この資格の現実的効用は取得者各々による用い方いかんにかかっているので、現時点ではまだ評価を下すべき段階に立ち至っていないが、これまでの経験を通して、現代日本社会における宗教教育の問題点がいくつか浮かび上がってきたように思われる。

認定試験実施のために積み重ねられてきた研究と討論の中から見えてきたことの一つは、従来の日本の宗教教育理解がかなり限定された宗教観に基づいていたということであった。この発見は、前世紀半ば以来世界的規模で展開された宗教概念再考の動向と軌を一にする認識である。明治初年に翻訳概念として定着した日本語の「宗教」は、この言葉自体がすでに示唆しているように、まず何よりも「教え」であった。さらにそこから、その教えを説く既成教団の姿が思い描かれるのは自然の成り行きであろう。

その結果日本人が考える宗教とは、特定の教説を持った組織的集団のことになっていった。これは、「宗教」と訳されたヨーロッパの原語が持つ元来の意味からもさほどかけ離れたものではない。しかし、グローバル化が進んでキリスト教が相対化され、現代社会の展開に伴って教団組織の境界が流動化し始めると、こうした宗教理解は再考されざるをえなくなる。キリスト教をモデルとする実体的宗教概念だけでは、現代の多様な宗教現象を説明しきることができなくなったのである。

そこで日本語の世界で作業仮説的に導入されたのが「宗教文化」という概念であった。これに対応する概念は欧米にも存在しないわけではないが、どちらかと言えば、キリスト教以外の既成宗教の方がこの発想になじみやすい。宗教文化概念の利点は、まずこれが観念的になりにくく、具体的・現実的方向性を示唆することであろう。宗教と呼ばれる人間の営みは、現実には宗教文化として思想・芸術・等々と結びつき、聖と俗の境を越えるとともに、教団相互の境をも越えるのである。

宗教文化という表現を用いることによって、宗教現象は閉じられた教説の伝承に限定されず、教説それ自体の多様な展開が文化の次元でとらえかえされる。それによって、宗教集団を規定している教義・教説は、宗教体験と宗教思想のダイナミックスの中へと巻き込まれていくのである。伝承され規範化される教説は、教団内外で行われる戒律や儀礼を通してはじめて、現実社会に受け入れられる。宗教現象理解に不可欠のこうした実践的契機を具体的形態としておさえるためには、宗教文化という概念はかなり有効であろう。宗教概念再考の流れは、宗教理解において儀礼的なものが占める比重へと向けられた新たなまなざしと重なり合っている。

宗教教育はしばしば道徳教育と同類であるかのように見なされてきた。しかし両者は、本来別ものであることが確認されなければならない。人間の道徳感覚と宗教感覚は無関係ではないとしても、同一視されるわけにはいかないのである。人間の営みとしての宗教は、真偽・善悪の二分法を越えたところに芽生える「信ずる」という可能性に基づくものであり、この可能性は、はかなくもしたたかな持続力を持っている。

したがって宗教教育は、人間社会を支えるものではあるが、日本の政治の場で安易に用いられている道徳教育のように、国家統治の手段になるというわけではない。宗教教育に期待されるべき役割は、道徳教育の補完ではなく、人間存在の可能性の幅についての一段と踏み込んだ理解であろう。

増上寺三大蔵のユネスコ「世界の記憶」登録の意義と課題 柴田泰山氏6月18日

はじめに 本年4月17日の午後8時過ぎ、浄土宗と大本山増上寺がパリのユネスコ本部に対して共同申請していた「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書」が、ユネスコ「世界の記憶」に…

東洋的現象学としての井筒「東洋哲学」 澤井義次氏5月13日

言語哲学・イスラーム哲学・東洋哲学の研究において、世界的によく知られる井筒俊彦(1914~1993)は、晩年、伝統的な東洋思想テクストを、哲学的意味論の視点から読みなおす…

法華コモンズのめざすもの 西山茂氏5月7日

「法華コモンズ仏教学林」の学是は、日蓮仏教の「再歴史化」(具体的には現代的蘇生)である。当学林は、10年前に、法華宗諸派や日蓮宗諸派・日蓮系新宗教などの宗派横断的な学び舎…

世界平和への貢献 具体性持った目標を(6月13日付)

社説6月18日

祖師から現代へ 期待される宗教者の指導力(6月11日付)

社説6月13日

気候危機と食料危機 カネでは解決しない(6月6日付)

社説6月11日
このエントリーをはてなブックマークに追加