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水平社宣言起草の背景 ― 西光万吉と三浦参玄洞(1/2ページ)

兵庫県小学校教諭 浅尾篤哉氏

2014年9月10日
あさお・あつや氏=1958年生まれ。龍谷大大学院修士課程修了。『三浦参玄洞論説集』を編集。

部落解放の自主的な運動体である全国水平社の創立(1922年3月3日)に参画し、「日本の人権宣言」と呼ばれている水平社宣言を起草した西光万吉(1895~1970)の初期水平運動期の思想的背景には、大正デモクラシーの思潮のもと民族主義、社会主義、無政府主義、キリスト教、親鸞の思想などがあった。しかし、創立までの道程は平坦ではなかった。筆者は、西光万吉に思想的影響を与えた三浦参玄洞(1884~1945、現・奈良県宇陀市生まれ)の論説集を編集した(『三浦参玄洞論説集』2006年・解放出版社、以下『論説集』)。その縁もあり、両者の関係について述べてみたい。

西光万吉の経歴は、『西光万吉著作集』第1巻の「略歴と感想」(以下「略歴」)に大まかに記されている。

西光は、奈良県御所市にある浄土真宗本願寺派西光寺に生まれた。小学校に入学すると「賤視差別」を受け、中学校も差別によって、奈良から京都へ転々とする。1912年、差別によって中学を退学し、翌年、東京で絵を学び始めた。しかし、下宿した第一夜に、階下で奈良の被差別部落の話を耳にし、差別から逃げられないと嘆息する。「その後八年ほど、ある時は郷里にて、ある時は東京にて絵画の修業と読書の生活をつづけた」(「略歴」)。

西光は、東京にてゴーリキーの『どん底』の芝居を観て、「人間は尊敬しなくちゃならないよ!憐れむべきものじゃねえ」という台詞に感動したという。これは、水平社創立趣意書にも引用された。「この間、絵画の練習はしだいに消極的となり、読書が主となり、親鸞の信仰を伝えた『歎異鈔』からマルクスの『共産党宣言』にいたる種々なる書物を濫読した」(「略歴」)とのことであるが、1918年、同志の阪本清一郎に支えられ失意のうちに帰郷した。この年は、米騒動が起こっており、「全国的な米騒動も私の心に大きな衝動を与えた」と述べている(「略歴」)。

三浦参玄洞は、1907年、奈良県の現・御所市にある浄土真宗本願寺派誓願寺に入る。誓願寺は、西光の生まれた西光寺のすぐ隣にある。三浦は、それ以前、東京の大学を中退し、東京で本願寺の経営する高輪仏教大学で梅原真隆や松原致遠らと共に学んだ。また、内村鑑三の講演を聴き、「学生時代に於ける長き私の憧憬の的であった」(『論説集』)と述べている。

三浦は、西光らとのつながりを深める中で、誓願寺境内の一角で売店を開業。西光も同じく「消費組合」運動を行っており、これは当時、神戸市で社会運動を展開していた賀川豊彦を訪ねて習ったものであった。第1次世界大戦後の恐慌の影響を打開するため、西光らの区内で「燕会」が結成され、その中に消費組合運動があった。また、社会問題研究部を設け、三浦もメンバーの一人であった。

1920年、西光は、日本社会主義同盟創立大会に参加し、また、先の消費組合の後援者となる。しかし、同組合の人事に関する問題で悩み「自死願望」に陥り、「絶対避妊論」をも唱える。三浦は、この西光を支え励ますのである。当時の西光の心境を

水平運動の興る前一二年彼れは唯死があつた、死を考へること、たゞそれだけに彼は日々の慰安を求めた。「地獄の焰が物質的の者であつたら、どの位私等は助かるでせう」と一日彼は私に感慨したことがあつた。「生れて來るといふことが一番惡いんです。死こそは最高相の文化です。地上に於て私共は果して何を求め、何を望み得ませう、一切は欺瞞です。不正です。不義です」と彼は口を極めて罵つた」(「涙の谷を出でゝ」『左翼戦線と宗教』所収)。

これに対して三浦は、

君が考へることを知った瞬間から今日までの存在を悉く意識して作為して来たか、其間に意識以上の意識によって選ぶべく余儀なくされた結果は一つもなかつたか、若し一つでも是ありとすれば君の出生が単純な頭脳で定義するべくあまりに神秘であることを承認せねばならぬ。僕は知らぬ、知らぬが信ずる、出生は決して偶然の所産でなく或大きな意識以上の意識によつて自ら選んだ結果であることを、(「最高相の文化」(中)1921年2月9日『中外日報』以下『中外』)

と述べた。

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