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2024宗教文化講座

ガラパゴス化する日本の仏教研究 ― 国際会議で日本の解釈主張を(1/2ページ)

浄土宗総合研究所研究員 大正大綜合佛教研究所研究員 石田一裕氏

2014年12月5日
いしだ・いちゆう氏=1981年生まれ。大正大大学院仏教学研究科博士課程修了、博士(仏教学)。インド部派仏教を研究しつつ、仏典の翻訳研究にも携わっている。著書に『現代語訳「浄土三部経」』(共訳)、『The Three Pure Land Sutras』(共編)など

オーストリアのウィーン大学で8月18~23日、国際仏教学会(International Association of Buddhist Studies)の第17回学術会議が開催された。期間中には60の部会が開かれ、400を超える発表が行われた。

それぞれの部会では世界各国の仏教研究者が日頃の研究成果を披露した。多くの部会はインド仏教に関わるものであり、仏教の教理やさまざまな写本の研究発表が行われた。そのほかにも、チベット仏教や中国仏教の研究、また日本の近現代仏教の研究発表もあり、この学会は仏教研究における多くの分野を網羅したものと評することができるものであった。

私もそのうちの一人として「Difficulty in translating Chinese Buddhist scriptures in Japan(日本の漢字仏典翻訳の難しさについて)」というタイトルで、研究発表を行った。この発表は、浄土三部経や和語灯録などの浄土宗の典籍を英訳する過程で生じた問題や難しさを伝えることを目的としたものであった。学術会議の規則に、発表を英語で行うことが定められているため、不得意な英語での発表を余儀無くされたが、浄土宗総合研究所の英訳研究会における事前の準備が功を奏し、どうにか発表を終えることができた。

さて、今回の国際学会での発表は自分自身にとって貴重な体験であり、得るものも多かったが、それと同時に日本における仏教研究と世界におけるそれとのいくつかの相違を痛感した。少し大袈裟かもしれないが、ある意味で日本の仏教研究はガラパゴス化している。

日本の仏教研究は長い歴史を有している。6世紀に仏教が伝わって以来おおよそ1500年。この間、日本の仏教徒や研究者は仏典の研究を行ってきた。しかし、この歴史が日本仏教の立場を独特なものにするのである。

国際学会ではさまざまな国や人種の研究者がそれぞれの研究成果の発表を行うが、私はその中で耳にする漢字の音について違和感を覚えた。国際的には当然といえるかもしれないが、ほぼ全ての漢字は中国語の現代音で読まれる。漢字が日本語音で読まれるのは、日本人の名前や日本撰述の書名などで、それは例外のようなものだ。これは日本人の仏教徒にある種の不安を与える。漢字を見ればそれが何かが一眼でわかるが、その中国語音を聞いても、それが何かわからないのである。

例えば道綽の『安楽集』は、日本では著者を「どうしゃく」、書名を「あんらくしゅう」とそれぞれ読むが、国際学会では前者を「ダオチョー」、後者を「アンルェジ」と中国語音で読む。アルファベットで表記をすると「Daochuo」と「Anleji」となる。道綽は目にすることがあるが「Daochuo」は見慣れないし、何かもよくわからない。このような現象がいたるところで起きるのである。

また普段、漢字で表記されている経典の翻訳者はインドや西域の出身であれば、多くの場合サンスクリット語で表記される。古訳の訳経僧である支婁迦讖はローカクシェーマ(Lokakṣema)となるし、鳩摩羅什はクマーラジーバ(Kumārajīva)となる。後者は音と漢字が一致するが、前者はなかなか結びつかない。

これらの例は、日本人が慣れ親しんでいる漢字の日本語音が、国際学会では全く用いられないことを意味する。学会では「げんじょう(玄奘)」も「くしゃろん(倶舎論)」も出てはこない。それらは「シャンツァン」や「アビダルマコーシャ」と呼ばれるからである。

私は、これがとても不思議なことだと思う。なぜならば現在学会で使われる大蔵経は日本で編纂された大正新脩大蔵経であり、また日本人仏教徒はある意味で漢字のネイティブとして漢字仏典を読み、あるいは漢文で自身の思想を書き記したのである。しかし、これらの事実が顧みられることはない。つまり日本語の漢字音はほぼ用いられず、日本仏教徒の伝統的な仏教理解は国際学会においてあまり重視されない一つの観点にすぎない。

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