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第22回「涙骨賞」を募集
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江戸末を活(い)きた禅僧・蘇山玄喬(1/2ページ)

花園大国際禅学研究所研究員 瀧瀬尚純氏

2018年4月18日
たきせ・しょうじゅん氏=1975年、大阪府生まれ。花園大文学部仏教学科から同大学院文学研究科仏教学専攻博士後期課程単位取得。臨済宗妙心寺派寒山寺住職。研究領域は日本近世臨済宗について。主著は『日本人のこころの言葉 栄西』(共著)。

本年はいわゆる明治維新百五十年の節目に当たる。各地で維新関連の各種イベントが行われ、大河ドラマに西郷隆盛が取り上げられるなど、江戸から明治・近世から近代へと大きく転換する時代を回顧する機運が高まっている。

そのちょうど150年前に当たる明治元年12月14日、尾州(名古屋市)徳源寺では、一人の禅僧が示寂のときを迎えていた。名を蘇山玄喬(1799~1868)という。蘇山が活躍した足跡は各地に残されているが、徳源寺を臨済禅の修行道場として新たに開いたことで特にその名が知られている。

「日本臨済宗中興の祖」と称される白隠慧鶴(1685~1768)の法系に連なる蘇山は、白隠→峨山慈棹→卓洲胡僊→蘇山と次第する、白隠下第3世代にあたる。白隠は、自ら「我、人を得ること古人に愧じず」(『槐安国語』)と述懐したように、東嶺円慈や遂翁元盧をはじめ優れた弟子を多く打出した。白隠の弟子たちは全国に散らばり、さらに各地でその会下に秀でた徒弟を輩出し続け、やがて白隠の一門は近世日本臨済宗界を席巻することとなる。

その白隠の法脈に連なる蘇山は昨年、150年遠諱を迎えた。遠諱を記念して蘇山の遺墨や語録を集めた『妙用禅師遺徳集』が徳源寺より発刊され、加えて花園大学歴史博物館では昨年12月11日から本年2月3日にかけて「蘇山玄喬」と銘打った展覧会が開催された。本稿では、近世から近代への臨済宗門の転換・展開を、まさしくその中心にいた蘇山という禅僧の行履と宗風を見ることによって紹介したい。

蘇山玄喬は、寛政11(1799)年、肥後(熊本県)に生を受けた。俗姓は高橋氏といわれるが、出生地やその一族などは不詳である。6歳で父を亡くし、出家を志した蘇山は、肥後の見性寺において得度剃髪している。18歳まで見性寺で修行した後、九州から四国に渡り、遠く尾州総見寺の卓洲胡僊に参ずることとなった。卓洲に参ずること数年にして所悟を認められるが、その後も卓洲の示寂まで足掛け18年にわたり付き従い続けた。

卓洲が示寂した後、蘇山は自坊である見性寺に戻り住持となる。蘇山住山当時、見性寺の生活は窮乏を極めていた。蘇山の語録『鵞王毒涎』に収められる、日常底の心構えを説いた「制前作務普説」の中には、窮乏の状況が諄々切々と綴られている。しかし蘇山は、次のような古人の戒語を引き、枯淡を極める厳しい生活こそが雲水修行に資すると断ずる。

古人云く、「富貴は汝の善心を蠧害し、枯淡は汝の道情を玉成す」と。

この言葉の基づくところは

因って憶う、艱辛は爾の志を玉にし、又た知る、富貴は爾の愆ちを種うることを(『荊叢毒蘂』巻九「永昌の新主人、座右の篇を請う」)

と、白隠が弟子に対して述べた訓示にある。若き白隠は松蔭寺に住した際、常に貧窮しながらも、参禅する修行者を厳しく接化した。その法派下にある蘇山が、白隠の言葉を引用することで、松蔭寺と同様の厳しい修行生活によってこそ、白隠下の正脈を継承しうる法材を打出できると確信していたのである。

加えて蘇山は見性寺に住山して以降、九州各地の寺院より拝請を受けて、様々な祖録を提唱した。『鵞王毒涎』には、梅林寺(福岡県久留米市)など各地寺院で行った提唱の際に詠まれた偈頌が多く採録されている。偈頌の分量によって知られる拝請の数・語録の多彩さを見ると、蘇山が当時の宗師家として、群を抜いた存在であったことが容易に理解できる。

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