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第22回「涙骨賞」を募集
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ブッダの語るシンプルライフ(1/2ページ)

大谷大教授 山本和彦氏

2018年8月29日
やまもと・かずひこ氏=1960年、京都市生まれ。大谷大文学部卒、インド・プーナ大サンスクリット高等研究所博士課程修了。プーナ大Ph.D、大谷大博士(文学)。大谷大専任講師、アメリカ・ハーバード大客員研究員などを経て、2012年から現職。専門はインド哲学、仏教学。主な著書に『インド新論理学の解脱論』(法藏館)など。
はじめに

ブッダは何を語ったのか。すでによく知られているように、中道、縁起、空、無我、四聖諦、八正道、涅槃などである。それらは、ブッダの時代のヴェーダやウパニシャッドに対抗する思想であった。現実的には在家者が涅槃に至ることは難しい。家族と仕事を捨てて、出家修行者として生きていかねばならないからである。いまの日本でそんな人が一人でもいるだろうか?

日常的なこともブッダは多く語っている。それらは普段の会話のなかから自然に発せられたブッダの言葉であり、健康、食物、知足、人間関係などについてである。その基盤となっているものはシンプルライフである。シンプルライフであれば、在家者でも実現可能である。荷物が少ない方が旅は楽しくなるように、人生でも荷物は少ない方がよい(『ウダーナ・ヴァルガ』)。すべての束縛を離れた人には悩みはない(『ダンマパダ』)。シンプルライフを追求したいという人はいまの日本でもいるにちがいない。

衣食住のうちの衣服と住居について言えば、修行者たちは糞掃衣を着て、森や密林や洞窟に住んでいたようである(『スッタニパータ』)。

健康と食物

健康は病気がないことであり、最高の利得であるとブッダは言う。食物に関しては、健康のためにブッダは過食を戒め、小食を勧めている。食物は身体の維持のためにある。コーサラ国のパセーナディ王は大食していたが、大食を戒めるブッダの詩頌を聞いてから徐々に食事の量を減らし、小食になり身体が健康になった(『サンユッタ・ニカーヤ』)。

ブッダの時代は何を食べていたのだろうか。『スッタニパータ』などの古い経典によれば乳粥、米飯、お供えのお菓子などを食べていたようである。『テーラガーター』のなかでバッディヤ長老は、米飯に浄肉のスープをかけたものを食べたと言っている。カレーライスのようである。飲酒は慎むように言われている。食物に関して「生臭経」というお経がある。稷、ディングラカという植物、チーナカという豆、葉物野菜、根野菜、蔓樹の実をお布施としてもらって食べていた。さらにここでは、ブッダは肉食が生臭なのではないと言う。殺生が生臭であると言う。肉食の是非に関わる議論であるが、いまは深く追求しないことにする。

知足

知足はパーリ語でサントゥッティ、サンスクリットでサントーシャであり、「満足」と和訳されている。「いますでに足りていることを知る」という意味であり、少欲知足を内容とする。

ブッダの時代にはすでに成立していたジャイナ教では食事に関して知足が言われる。ジャイナ教の古い聖典、おそらく紀元前3世紀頃成立した『ウッタラジャーヤー』では「工芸によって生計を立てず、家なく、友なく、感官を征服し、すべての〔束縛〕から解放され、家で寝ることなく、わずか少量を食べ、家を捨てて一人行く、そのような人は比丘である」(山崎守一『沙門ブッダの成立』大蔵出版)と言われている。

ヒンドゥー教の『ヨーガ・スートラ』(300年頃)のなかでは「知足」は、ヨーガ実修に入る前の準備の一つである。準備は不殺生、真実、不盗、梵行、不所有という五つの禁戒と清浄、知足(サントーシャ)、苦行、読誦、自在神祈念という五つの勧戒である。『ヨーガ・スートラ』の註釈書では、知足は「渇愛の滅」である。さらに『バガヴァット・ギーター』(1世紀頃)では「不殺生、平等心、満足、苦行、布施、名誉、不名誉、これらすべてのもののそれぞれの状態は、私(ヴィシュヌ神)からのみ生じるのである」「非難と称賛とを等しく見て、沈黙し、あらゆるものに満足し、住居なく、心が定まっており、信愛ある人、彼は私(ヴィシュヌ神)にとって愛しい人である」と言われている。

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