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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

ターミナルケア論に求めたいもの ― 宗教の関わり方(2/2ページ)

大正大教授 曽根宣雄氏

2018年9月7日

こういった法然上人の説示は一貫しており、『浄土宗略抄』には「またまめやかに往生のこころざしありて弥陀の本願を憑みて念仏申さん人、臨終の悪き事は何事にかあるべき。その故は仏の来迎したまう故は行者の臨終正念のためなり」とあり、正念来迎(亡くなり行く者が、心の乱れのない境地に入れば阿弥陀仏が来迎される)ではなく、来迎正念(亡くなり行く者を、心乱れのない境地に導くために阿弥陀仏は来迎される)ことを明らかにされている。つまり、亡くなり行く者が自らの努力で正念に入ることの困難さを踏まえつつ、阿弥陀仏の導きによって誰もが正念に導かれるとしているのである。

法然上人は『往生浄土用心』において「ただし人の死の縁は予ねて思うにも叶いそうらわず。にわかに大路、径にて終る事もそうろう。また大小便痢のところにて死ぬる人もそうろう。前業逃れ難くて、太刀小刀にて命を失い、火に焼け水に溺れて命を滅ぼす類多くそうらえば、さようにて死にそうろうとも、日ごろの念仏申して極楽へ参る心だにもそうろう人ならば、息の絶えん時に、阿弥陀、観音、勢至来たり迎えたまうべしと信じ思召すべきにてそうろうなり」と述べ、人間の最期は思うようにならないものであることを指摘した上で、どのような状況であっても、日頃念仏を申して極楽往生を願っていた人であれば、命終の時に阿弥陀仏・観音菩薩・勢至菩薩は、来迎してくださると受け止めるべきであるとしている。

このように法然上人の説示からは、自らの力によって正念に至るという「死に様」によって往生の可否が決定するのではないという明確な主張を読み取ることができる。こういった、人間の現実に対する寛容性・包容性は、宗教が決して忘れてはならない大事な要素である。

松本滋氏は『父性的宗教 母性的宗教』の中で、どのような宗教でも、二つの要素が混ざり合い融合していると指摘し「父性的宗教―禁欲的・自律的・条件的・規範的、母性的宗教―和合的・寛容的・無条件的・包容的」と分類している。私は「父性的宗教=~せしめる」「母性的宗教=~を受け入れる」と理解している。

松本氏の考察は、人間の心理要素まで踏まえた上でのものであり、随所に示唆的な考察がみられる。母性的宗教の説明の中では「人間の自律分離がしばしば惹き起こす孤立感疎外感に耐えきれなくなった時、すべてを許しすべてを受け容れてくれる包容的な母親的存在、故郷的存在が重要な意味を持つ」と述べられている。自己の自律分離そのものや、それによる孤独感疎外感に対応すべき内容は、母性的宗教の和合的・寛容的・無条件的・包容的という要素なのである。

私自身の体験を言えば、小中学生であった子供たちのことを心配し無念の中で亡くなった先輩僧侶や子供たちの行く末や孫の成長を楽しみにしながら亡くなっていった義父は、いずれも「死の受容」とは無縁の執着の中での最期であった。しかしながら、それはいけないことであり、否定的に捉えられることなのだろうか。私は、むしろ二人共素晴らしい父親であったとその愛情を賞賛したいと思うのである。

誰もが凡夫である以上、無執着になどなれるはずがない。私たちはたとえ宗教の教えに触れたとしても、すべてを処理できずに悩み苦しみを抱き続けるのである。真の意味でのケアは、そういった人々を前提にしてなされるべきものでなくてはならない。「~せしめる」ではなく「~を受け入れる」ことを基本に、導くのではなく寄り添うことこそを大切にして行くべきであろう。私は以上の点から、ターミナルケアと宗教の関わりについては、一度立ち止まってよく検討すべきであると考えている。

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