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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

黙殺される天皇陛下のメッセージ(2/2ページ)

成城大教授 外池昇氏

2018年10月31日

そのことを考えるのに象徴的な例をここで見ることにしよう。新しい元号には、その元号をローマ字表記にした場合にM・T・S・Hから始まるようなものは採用しないであろうということが伝えられている。先に挙げた『読売新聞』の記事にも指摘がある。つまり、Mは明治、Tは大正、Sは昭和、Hは平成の頭文字であるから、便宜のためにはこの四つのアルファベットが先頭に来るような元号は採用しないであろうというのである。もしM・T・S・Hから始まる元号がこの度の改元で採用されたなら、確かに社会一般が混乱することがあるかも知れない。それは避けるべきである。しかし、実際にはM・T・S・Hから始まる年号が採用されるようなこともないであろうと思うのである。そもそも、昭和から平成への改元に際しても、新元号の候補には平成の他にも修文と正化もあったが、このようなアルファベットの問題もあってSから始まる修文や正化ではなく平成が採用されたというのである。

しかし別段、M・T・S・Hから始まるような元号が採用されるかも知れないから、今後は元号を用いるのはやめて西暦を用いようという議論がちまたにあふれているのでもない。むしろ今日の社会一般の改元あるいは新元号についての受け止め方ということで言えば、黙殺にすら近いのであろう。先に挙げたコンピューターの問題にしてもカレンダーの問題にしても、元号を用いるのをやめて専ら西暦によることにすれば万事解決である。別に違法でも何でもない。

同じような改元・元号についての受け止め方を近年の例に求めれば、昭和から平成への改元ということなのであろうけれども、あの時の改元は昭和天皇の崩御によるものであった。全国が自粛に覆われたことが思い起こされる。つまり、あの時の改元はいわば突然になされたことなのであった。それに較べて今回の改元は、先にも触れた通り平成28年8月のビデオメッセージによるものである。つまり、この度天皇が退位するとはいっても、それは天皇自らのご意思によることなのである。いってみれば今回の改元には、自由な立場から改元・元号を議論する条件にはむしろ大いに恵まれているはずなのである。その自由の結果が黙殺に近いものであるとすれば、それはなんとも悲しい。

それにしても新元号はいったいいつ発表されるのであろうか。この頃は代替わりについての話題といっても、何月何日が祝日やら休日やら振り替え休日やらになるの、ならないのという話が多い。それも国民の日々の生活にとって大切なことであるのは確かだが、祝日やら休日やら振り替え休日やらというその頃には、もうすでに新しい元号が始まっているのである。そのことの方がよほど国民の生活に影響が大きいのではなかろうか。それともそんなことはないのであろうか。

引き続き元号を使い続けろと言っているのではない。これまでとは全く異なった前提による改元である。まったく新しい方法に基づく改元である。自由に議論をしてみたらどうだ、と言っているのである。西暦を用いることが全く誤っているとも言わない。西暦には西暦の歴史や政治があり、もちろん文化がある。そしてその西暦が我が国にも及ぼされてきたのについては、それ相応の経緯もあるのである。

しかし、ただ全世界共通に年が数えられればそれでよいのだとか、このままほうっておけば自然に元号は有名無実になるからそれが一番よいのだとかいうことが事実上の黙殺の理由なのであれば、それは間違っていると言いたい。元号がこれまで我が国の長い歴史の中で用いられ続けてきた経緯に思いを致して、自由に議論をしてみてはどうかと言いたいのである。

繰り返すようであるが、年月の積み重ねというのは、ただ年の順番が分かって誰にでも間違いなく数えることができさえすれば、それでいいというようなものではない。それこそ社会一般に密着しつつ長い年月を経て今日にまで至った、まさに歴史を体現したものなのである。

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