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シンポジウム「近代仏教としての禅宗」(2/2ページ)

愛知学院大教授 林淳氏

2020年4月27日 11時20分

内紛は、しばしば宗門のタブーとして内部者の探求は封じられ、外部者は史料すら閲覧できないジレンマがある。この時期の内紛は宗派に固有なものではなく、この時期に固有なものであると考えるべきである。

ジュリオ・ナシメント「近代仏教における大内青巒の位相―「在家」仏教の構築と宗門」は、メディアや結社運動で活躍し、『修証義』の編集者でもあった大内青巒の特色を把握しようとする試みである。従来の研究では、社会福祉事業の先駆者、通仏教の体現者、仏教ナショナリストという評価が与えられてきた。一見すると焦点に欠けて見える大内の活動の根底に、在家仏教を構築しようとした一貫とした意図があったとナシメント氏は論じる。内地雑居の下で自分の理想とする仏教信仰を「在家仏法」として大内は提唱したという。発表に対して、大内にとって在家とは何だったのかが質問された。

藤田和敏「臨済宗妙心寺派における宗派自治の形成」は、『明教新誌』をつかって、明治8年から17年にかけての臨済宗妙心寺派の動向を明らかにしたものであった。宗報が刊行されていない時代であるだけに貴重な報告となった。明治18年「妙心寺派憲章」が制定されて、布教・教育制度も形成され、自治的な運営が始まったことが指摘された。不立文字で法を言葉で説かなかった臨済宗の僧侶が、教化の最前線に立ち言葉を使った布教を行うのには困難を伴ったことが論じられた。発表に対して、臨済宗ではキリスト教への対抗意識があったかどうかが尋ねられた。

川口高風「曹洞宗紛擾問題について―井上馨と三浦梧楼」は、明治25年から27年にかけて起こった曹洞宗の最大の内紛を扱った。ここでいう紛擾問題とは、総持寺が永平寺優位の曹洞宗の体制から独立しようとした運動であった。帝国議会でも問題になり、最終的には内務省が介入して事件を収束させた。

曹洞宗の僧籍をもつ川口氏は、近代曹洞宗の研究をはじめた時に先輩から紛擾問題に手をつけない方が良いと助言されたという。この問題は過去の出来事ではなく、その当時に活躍した僧侶や寺院の関係者の法孫らが現在もいるからで、何らかの影響を及ぼすと思われたからである。川口氏は、研究史を整理し井上馨文書の史料を紹介した後で、研究方法を定めて進めばよいのではないかと述べた。質疑応答では、内紛問題をタブーとして避けるのではなく、そこに歴史的な意味を探ることはできないかという意見が出された。

吉永進一「近代仏教史の中の忽滑谷快天」は、駒澤大学の初代学長についた異色の学者忽滑谷をとりあげた。慶応大学で英文学を学び、曹洞宗高等中学林で英語の教師となった忽滑谷は、洋行からの帰国後、曹洞宗大学学長に就任した。忽滑谷の特徴は、自然科学や哲学と禅宗を結び付けて、死後の霊魂、極楽浄土、諸仏を否定して、汎神論の立場から宇宙の大霊を帰依することが曹洞宗の正信だと述べた点にあった。そのために原田祖岳との間で正信論争を起した。

忽滑谷の仏教近代化のヴィジョンは、新仏教同志会の影響を受けたものであった。忽滑谷は自分の理想とする仏教を曹洞宗に生かし、理想の仏教を形成しようとしたといえる。忽滑谷の限界は、新仏教の限界でもあったと吉永氏は総括する。忽滑谷がスタート地点では鈴木大拙と多くを共有しながらも、異なる道を歩んだ点も言及された。

世俗の人と同様に

守屋友江氏が、シンポジウム全体についてコメントを行った。真宗史研究者であった児玉識氏が近代の真宗教団が近世から続いてきた在家講を潰したと歎いたという話を紹介し、守屋氏は、近世から近代にかけて国家と仏教の関係が大きく変化したことの重要さをあらためて指摘した。また守屋氏は、アジールの消滅に言及し、法令が強まって、僧侶が世俗の人と同じように生きる社会になった点に注目した。

今回のシンポジウムは禅ではなく禅宗を取り上げ、政府と教団との関係、管長制、内紛、正信論争などがテーマになった。吉永氏が提起した忽滑谷と大拙の違いも、教団内の人か教団外の人かの違いとして理解できる。

内務省、文部省の法令をできるだけ順守し、経営基盤を立て直し僧侶養成機関を維持するために、多くの人々の組織的な努力がつぎ込まれた。そこにはスター的人物が出てくる余地はないようにも思われる。教団という組織を維持するために関係者が膨大なエネルギーを費やした事実を掘り下げていくと、近代仏教の新しい物語の源泉を発見できるかもしれない。

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