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希望はどこにあるのか?―コロナ禍の中で近代を捉え直す(1/2ページ)

東京大名誉教授 末木文美士氏

2021年1月5日 09時20分
すえき・ふみひこ氏=1949年、甲府市生まれ、東京大大学院修了、博士(文学)。東京大教授、国際日本文化研究センター(日文研)および総合研究大学院大教授を歴任。現在、東京大、日文研、総合研究大学院大名誉教授。専門は日本思想史・仏教思想。『鎌倉仏教展開論』『冥顕の哲学1・2』『浄土思想論』『日本思想史』など著書多数。

本稿を執筆している11月下旬、新型コロナウイルス感染症は世界的に猛威をふるい続け、日本国内の流行も第三波で危機的な状況にある。当初数カ月程度で収まるのではないかと、漠然と楽観的だったのが、年単位の持久戦になり、その間の被害は計り知れないものになりそうである。特別危険なところに近づかないでも、いつも感染の不安が拭えない。

コロナをめぐる問題については、これまで何回か書いてきたが、こうして状況が深刻化したからと言って、特に改める必要はない。その要点は、パンデミックはただそれだけの問題ではなく、経済や政治・社会などはもちろん、私たちの存立そのものに関する問題として総合的に捉えなければならないということである。コロナは私たちの世界観全体の大きな転換を余儀なくさせる。「コロナ後」の世界は、コロナそのものと同じくらい、あるいはそれ以上の困難を伴うであろう。

100年前のスペイン風邪の後には、世界大恐慌が襲い、ファシズムやナチズムの興隆を招いた。日本ではさらに関東大震災がそれに輪をかけて、戦争への道を歩むことになった。今回のコロナ禍は、100年前と比べてもさらに厳しいものがある。それは、コロナ以前から深刻化していた温暖化をはじめとする地球環境の悪化が、人類の存続にも関わる大問題になっているという現状である。コロナの蔓延もまた、気候変動と無関係でないことが指摘されている。コロナ単独への対処だけでなく、より大きな問題の総体的解決が不可避となっているのである。

そうした中で、これまでの近代的な世界観がもはや通用しなくなっていることはしばしば指摘されることであり、私自身もそのように考えてきた。実際、米国・中国・ロシアなどの大国をはじめとする国内的な強権主義と対外的な自国中心主義の伸張は、自由・平等・平和などの近代の理念を踏みにじり、無効化してきている。従来の理念や常識では通用しない事態に対処しなければならなくなっている。

しかし、それでは近代が完全に終わりになり、その後まったく断絶した違う世界観に転換しなければならないのだろうか。この頃思うに必ずしもそう簡単には言えないようである。近代は決して一枚岩的なかたまりではなく、より複雑な重層性を持っている。むしろ大事なのは、これまで常識的に通用してきた近代に対する見方を覆し、近代の中にある別の可能性を掘り出すことではないだろうか。

これまでの常識的な近代観とはどのようなものであろうか。それは、近代がルネサンスや宗教改革に始まり、人間中心主義の進展の中で、アメリカ独立戦争やフランス革命によって近代の基礎が確立するというものである。哲学的には、イギリス経験論と大陸合理論がドイツ観念論によって結合され、ヘーゲルにおいて頂点に達すると見られる。その後の19世紀は科学主義が蔓延する一方で、それに対するマルクスやニーチェの近代批判が展開されることになる。科学の進展と世俗化する社会の中で、宗教は傍流に追いやられ、排除されてゆくと見られる。

しかし、こうした図式的な見方で済むほど、近代は単純ではない。19世紀はただ科学的な合理主義が展開するだけではない。一見科学によって宗教が消えていくかのように見られるが、じつはそうでもない。科学の進展は、超常現象を科学と結びつけることで、オカルト現象への関心や心霊科学の発展を招く。それと同時に、植民地主義の拡大は、アジアの宗教・思想を西洋にもたらし、キリスト教と異なる宗教の可能性に目を見開かされることになる。そして、それが今度はアジアに逆流していく。西洋と東洋がぶつかりながら、相互に影響しあう時代の始まりである。

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